瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山岸凉子『メタモルフォシス伝』(2)

 ここに描かれる高校生活は、私の高校とは全くレベルが違うけれども、雰囲気は今の高校よりも余程近い。
6月26日追記】この高校のレベルについては、秋田文庫版12頁7コマめ、新田忍の台詞に「すくなくとも偏差値70の我が校*1」云々とあり、小口側欄外下部にゴシック体細字で「偏差値=テストの特典が受験者全体の中で、どのランクにあるかを示す数値。*2」との注がある。48頁(頁付なし)は連載第2回のカラー扉絵と思われるが、丸ゴシック体で左上に「都内の某高校/受験率99%/入学時偏差値70/T大合格者数は/全国でも五指に/数えられる*3」左下に「この/もうれつな受験高に/今日も/非情な始業ベル/が鳴る!*4」とある。
 院生時代に私が高校の非常勤講師を始めたとき、あまりのギャップに仰天したものだ。大して勉強しなくても大学に入れるのだ。そんなところを大学なぞと呼びたくないが、そんなところに本当に何も知らない若者が通っているのである。――いや、彼らが勉強しないのではない、勉強させないのだ。
 中学までに私が抱いていた高校生活のイメージは、この漫画に描かれているような(但し軽井沢での別荘生活は除く)ものだった。過去25年間で東大合格者たったの1名と云う偏差値40(!)の私の高校でも、勉強はしないといけないと云う雰囲気はあったのである。
 さて、「花とゆめ」は月2回、5日と20日発売で、5日号が前月20日発売、20日号が当月5日発売である。
 すなわち、昭和51年(1976)の5月20日号から10月20日号まで、と云うことは実際には5月5日頃発売の号*5から10月5日発売の号まで連載された訳だから、執筆時期は4月から9月に掛けてと云うことになろう。
 昨日の続きで、秋田文庫版によって少々設定を確認して置く。
 5頁(頁付)中扉はトランプのデザインで主要登場人物の蘇我要・大野久美・新田忍(男性)が描かれたダイヤの3。
 6頁から本編で「くだん書房」の目録には「カラー5頁」とあるから、10頁までがカラー、11〜18頁は2色刷だったらしい。
 6頁(頁付なし)1コマめ、長方形の枠に丸ゴシック体で、この群像劇の最初の語り手であった大西久美の、

それはね 我が/灰スクール2年目の/新学期に突如/おこったことなのよ*6

というナレーションに始まっているように、登場人物たちは高校2年生になったところである。
 8〜9頁(頁付なし)見開きは「くだん書房」の古本リスト「花とゆめ」にリンクされている蘇我要登場場面。
 そして10頁(頁付なし)1〜2コマめに6頁1コマめ以来の、

そう あいつは一陣の桜吹雪とともにわが2年A組に登場したのです*7
あたしが その時思い出したのは某テレビ局番組の/風とともに現われる玄明 とかいう若武者なの*8

なる、ゴシック体の大西久美のナレーションが入る。
 この「玄明」だが、平将門の乱に加わった藤原玄明(940歿)で、「テレビ局番組」とは昭和51年(1976)の1年間(全52回)放送された平将門加藤剛)を主人公とするNHK大河ドラマ風と雲と虹と」、ここでは鹿島玄明と云う名前で、演じたのは草刈正雄(1952.9.5生)。もちろん私は見たことがないが、「テレビドラマデータベース」で検索するに、連載開始までに草刈氏の登場した回は2月8日放映の第6回「闇の群」4月11日放映の第15回「伊予の海霧」である。なお、連載終了後の11月7日放映の第45回「叛逆の道」から12月26日放映の最終回(第52回)「久遠の虹」まで草刈氏は連続して出演しているのだけれども、もし連載が年末まで続いていたら、何かしらの影響があっただろうか。

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 とにかく、作中の時間が、現実の時間と同じ昭和51年(1976)4月から始まっていることを、この「玄明」と云うツカミで見事に*9表現しているのである。すなわち主人公たちが高校2年生であるのは昭和51年度、昭和34年度生と云うことになる。連載当時に我が事として読むことの出来た同学年の人の感想が聞きたいものである。(以下続稿)

*1:ルビ「へんさち」。

*2:ルビ明朝体「へんさち・とくてん・じゅけんしゃぜんたい・なか・しめ・すうち」。

*3:ルビ明朝体「とない・ぼうこうこう/じゆけんりつ・パーセント/にゆうがくじへんさち/テイーだいごうかくしやすう/ぜんこく・し/かぞ」。

*4:ルビ明朝体「/じゆけんこう/きよう/ひじよう・しぎよう/な」。

*5:5月5日は祝日だから当時は休日ではなかった5月4日発売であったろうか。

*6:ルビ「わ・ハイ・ねんめ・しんがつき・とつじよ」。

*7:ルビ「いちじん・さくらふぶき・わ・ねんエーぐみ・とうじょう」。

*8:ルビ「とき・おも・だ・ぼう・きょくばんぐみ/かぜ・あら・はるかあきら・わかむしゃ」。

*9:時事ネタは以後、殆ど扱われていない。