瑣事加減

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宮澤賢治『注文の多い料理店』(08)

・角川文庫924(6)
 8月24日付(07)からの続きで小倉豊文「新しい古典復刻の弁」について。
 改版四十五版168頁3〜10行め・改版初版210頁15行め〜211頁9行め・改訂初版196頁5〜13行め、

 ところで、この書の完全な復刻にすこぶる困難な事情がある。というのは、|この童\話集の初/版は、その内容が作者自身の編に成るばかりでなく、その内容|に照応する挿\画があり、中扉の/カットがあり、表紙の装釘・装画があり、それ|らにも作者自身の濃\厚な息吹きがかかっていて、/所収童話の作品効果は、それ|ら全体の交響楽によっては\じめて完全に発揮されるように企画/されている、し|たがって完全な復刻にはそれらす\べての復元がなされなければならないからで/|ある。本書のごとき文庫本という制約が\あると、この復元にはさらに困難が加|わらざるを得な/い。厳密に言ったらそれは不可\能といわねばならない。その不|可能をできるだけ可能に近づけ/ようと努めてでき上が\ったのが本書の企画なの|である。*1


 ついで、初版本の装幀を詳しく紹介して改版四十五版169頁2〜4行め・改版初版212頁6〜8行め・改訂初版197頁7〜9行め、「‥‥、残念なが/\ら本|書では全部割愛しなければならなかった。しかし、将来機会を捕えてぜひ復元|し\たいと思/っている。*2」としている。これは結局実現しなかった。わざわざそこまでする必要もなくなっていた。しかしながら、表紙は扉とともに、アート紙の口絵の裏面に「『注文の多い料理店』初版本(大正13年刊)」と題して白黒ではあるが写真が掲出されている。従って、背表紙を除く装画は全てこの文庫本で見られるようになっている訳である。

 その後、高度経済成長期を迎えて、原本に近い復刻版が刊行されるのであるが、本書の企画段階では朝鮮戦争の特需で景気が上向いて来たとは云え、敗戦から10年程の高度経済成長期の前夜であって、まだ完璧な復刻版の制作は望むべくもなく、文庫本と云う制約下にてそれに近いものとして制作したのが本書だったわけである。
 ついで、初版本の内容について述べる。改版四十五版169頁5〜11行め・改版初版212頁9行め〜213頁1行め・改訂初版197頁10〜17行め、

 内容は全部コットン紙で、本文一九四ページ、序文二ぺージ、目次二ぺージ、|本扉\一枚、中/扉九枚、挿画九枚、中扉のカットと挿画はいずれも九篇の童話に|対応するも\ので、事実一篇/二枚あての挿画がはいっていると同様である。これ|らは形を縮小した\だけで全部復元すること/ができた。ただし、本扉はもちろん|中扉も挿画のページも裏\面を白紙にしてある点は、一ペー/ジをマージンを広く|とって三十五字詰十一行という\ゆっくりした組み方にしているのとともに/割愛|せざるを得なかった。しかし、本扉と\中扉の絵と挿画の復元は、内容の鑑賞と|賢治の「心/象スケッチ」の理解に少なからず\役立つものと思う。*3


 次いで、この本扉・中扉・挿画を描いた菊池武雄(1894.12.8〜1974.7.11)について、引き受けた経緯等、またこの復刻を「固持」していたが小倉氏が「あえて強引にむりやり承知」させたことを述べている。
 そして、改版四十五版170頁8〜15行め・改版初版214頁4〜13行め・改訂初版198頁16行め〜199頁7行め、

 次に目次と序文も初版のままである。序文は本書の付録に入れておいた「新|刊案\内」ととも/に、賢治の数少ない童話に関する意見の論文的な表現として貴|重な文献で\あるが、目次もまた/文献的価値がすこぶる大きい。各標題の下には|いっているかっこ\内の数字が、それぞれの作品/の完成年月日を示しているから|である。賢治は詩には制\作年月日を明記してあるものが多いが、/童話にはそれ|がきわめて少なく、この童話集\中の作品以外二、三篇を数えるにすぎないから|で/ある。「狼森と笊森、盗森」だけは\年月だけで、はじめから日付は記入して|なかった。本書で/は文庫本としての体裁の統\一上、これらの制作年代を示す数|字を各作品の終りにもっていくこ/とにした。些細な\ことではあるが、お断わり|しておく。‥‥*4


 それなら「目次」は「初版のまま」ではないではないか、と思うのだけれども、改版四十五版・改版初版にはこの「数字」が「各作品の終り」にあるのだが、改訂初版ではなくなっており、初版本に合わせて「目次」に戻したと云う訳でもなくて、どこにも載っていないのである。(以下続稿)

*1:ルビ、改版四十五版「かんぜん・ふつこく・こんなん・じじよう・どうわしゆう・しよ/はん・ないよう・さくしやじしん・へん・な・ないよう・しようおう・さしえ・なかとびら/ひようし・そうてい・そうが・さくしや・のうこう・いぶ/しよしゆうどうわ・さくひんこうか・ぜんたい・こうきようがく・かんぜん・はつき・きかく/かんぜん・ふつこく・ふくげん/ぶんこぼん・せいやく・ふくげん・こんなん・くわ・え/げんみつ・い・ふかのう・ふかのう・かのう/つと・きかく」改版初版「さしえ・なかとびら・そうてい・のうこう・いぶ・こうきようがく・きかく・ぶんこぼん・せいやく」改訂初版「さし\え・なかとびら・そうてい・のう\こう・いぶ・こうきようがく・きかく」。

*2:ルビ、改版四十五版「ざんねん/ぜんぶかつあい・しようらいきかい・とら・ふくげん」改版初版・改訂初版「とら」。

*3:ルビ、改版四十五版「ないよう・ぜんぶ・じよぶん・もくじ・ほんとびら・なか/とびら・まい・そうが・まい・なかとびら・そうが・へん・どうわ・たいおう・じじつ・ぺん/まい・そうが・どうよう・しゆくしよう・ぜんぶふくげん/ほんとびら・なかとびら・そうが・りめん・てん/じづめ/かつあい・え・ほんとびら・なかとびら・え・そうが・ふくげん・ないよう・かんしよう・けんじ・しん/しよう・りかい・やくだ」改版初版・改訂初版「へん・じづめ・かんしよう」。

*4:ルビ、改版四十五版「つぎ・もくじ・じよぶん・しよはん・じょよぶん・ふろく・しんかんあんない/けんじ・どうわ・かん・いけん・ろんぶんてき・ひようげん・きちよう・ぶんけん・もくじ/ぶんけんてきかち・かくひようだい・さくひん/かんせい・しめ・けんじ・し・せいさく・めいき/どうわ・どうわ・さくひんいがい・ぺん/オイノもり・ざるもり・ぬすともり・ひづけ・きにゆう/ぶんこぼん・ていさい・とういつじよう・せいさくねんだい・しめ・かくさくひん・おわ/ささい・こと」改版初版「ぶんけん・しめ・ぺん・オイノもり・ざるもり・ぬすともり・ささい」改訂初版「ぶんけん・ぺん・オイノもり・ざるもり・ぬすともり・ささい」。