瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

宮澤賢治『注文の多い料理店』(09)

・角川文庫924(7)
 小倉豊文「新しい古典復刻の弁」について、昨日の続きから。
 改版四十五版171頁1〜3行め・改版初版215頁3〜5行め・改訂初版199頁11〜13行め、

 最後の奥付とその裏面の広告は残念ながらその復刻を省略した。しかし、こ|れは表\裏両面あ/い呼応して、出版当時の事情を物語っている文献なのである。|そこで、その\要点を紹介しなが/ら、出版に至るまでの実情を記しておこう。*1


 続いて奥付に見える発行所や発行者・近森善一(1897.8.25〜1973.1.14)及び及川四郎(1896〜1974)について説明している。そして刊行後の反響(無反響)について、ちらしや私製葉書から窺われる作品配列の苦心等について述べ、最後に改版四十五版180頁2〜8行め・改版初版227頁15行め〜228頁7行め・改訂初版210頁3〜10行め、

 賢治研究に重要な資格や視野を提供している問題は、以上の二、三にはとど|まらな\いが、単/にこれだけでも作者自身が編纂し出版した童話集『注文の多い|料理店』初版\の復刻が、ただ古/書収集マニアの食欲を満足させるだけのもので|ないことは、充分わ\かって貰えたことであろ/う。*2
 最後に、この困難な縮冊復刻の仕事を、広範囲への普及を眼目とする文庫本|で出す\決意をし/てくれた角川書店主と、挿画装画の復刻を自らの芸術的良心を|犠牲にして承\知してくださった/菊池武雄氏に、心からなる深い敬意と感謝をさ|さげる。(一九五\四・八・六)*3

と纏めている。
 なお、改訂初版は1行空けて3字下げで小さく、

この解説は本文庫初版の編者である小倉豊文氏によって一九五四年に執筆されたものでありま\す。したがって今日までになされた本文校定の結果とは若干の相違があり、また現在の構成形\態と合わないところがありますが、編者の意図を示すために重要な文書でありますので、当初\の形のまま収録しました。(編集部)

と、改版四十五版・改版初版にはなかった断り書が附されている。前回注意した、改版初版にて「制作年代を示す数字」が「各作品の終り」から姿を消したのは、この編集部の断り書に関連するのであろうか。だとしたらもう少し説明が欲しいところである。
 ついで、改版四十五版・改版初版は2行分空けて3字下げで大きく「宮沢賢治の作品」次の行は下詰めで「石 森 延 男  」1行空けて本文。改版四十五版180頁9行め〜185頁(3行め)・改版初版228頁8行め〜235頁(2行め)。
 改訂初版は8月23日付(06)でも注意したように、石森延男(1897.6.16〜1987.8.14)ではなく早坂暁(1929.8.11生)の文章に差し替えている。すなわち、2行取り3字下げで大きく「注文の少い本」次の行は下詰めで「早 坂  暁  」1行空けて本文、220頁(10行め)まで。
 早坂氏の文章が良くないと云うのではないが、私などからすると誰か専門家に、小倉氏の見解に対して「今日までになされた」研究の成果を踏まえて「現在」どのように考えるのが妥当なのか、手短に説明するような文章が欲しいところなのだが、それは平成の世の文庫本としては異例なのであって、むしろ小倉氏の文章をそのまま保存してくれたことを感謝すべきなのかも知れない。(以下続稿)

*1:ルビ、改版四十五版「さいご・おくづけ・りめん・こうこく・ざんねん・ふつこく・しようりやく・ひようりりようめん/こおう・しゆつぱんとうじ。じじよう・ものがた・ぶんけん・ようてん・しようかい/しゆつぱん・いた・じつじよう・しる」改版初版・改訂初版「おくづけ・しようかい・しる」。

*2:ルビ、改版四十五版「けんじけんきゆう・じゆうよう・しかく・しや・ていきよう・もんだい・いじよう・たん/さくしやじしん・へんさん・しゆつぱん・どうわしゆう・ちゆうもん・りようりてん・しよはん・ふつこく/しゆうしゆう・しよくよく・まんぞく・じゆうぶん・もら/」改版初版・改訂初版「へんさん・じゆうぶん・もら」。

*3:ルビ、改版四十五版「さいご・こんなん・しゆくさつふつこく・しごと・こうはんい・ふきゆう・がんもく・ぶんこぼん・けつい/かどかわ・しゆ・そうがそうが・ふつこく・みずか・げいじゆつてきりようしん・ぎせい・しようち/ふか・けいい・かんしや」改版初版・改訂初版「ふきゆう・かどかわ・そうが・ぎせい」。なお、最後の括弧・日付は改版初版のみ一回り小さくなっている。