瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

亡魂船(2)

 10月17日付(1)に、明治20年頃の亡魂船の話を浅沼良次『流人の島』から引用したが、同じ著者の『八丈島の民話』にも「亡魂船」と題する話が載っている。
 『八丈島の民話』の諸本は、2011年10月24日付「浅沼良次編『八丈島の民話』(1)」、2011年10月25日付「浅沼良次編『八丈島の民話』(2)」、2011年10月26日付「浅沼良次編『八丈島の民話』(3)」に整理して置いたが、その後、新たな版が出ている。未見。
並製本新版

八丈島の民話 (日本の民話 新版 40)

八丈島の民話 (日本の民話 新版 40)

 見る機会を得てから、従来の版と比較してメモするつもりである。今は差当り①初版の復刻である④オンデマンド版によって確認して置こう。25話め(90〜94頁)「亡魂船」の、まづ冒頭を抜いて置こう。90頁2〜10行め*1

 八丈島でまだ櫓船で漁をしていたころの話でおじ/ゃる。*2
 島に太郎と次郎という若い漁夫がいました。二人/とも仲よしの漁夫でしたが、船主の娘のナカを二人/とも好きになってしまいました。
 それをしった船主は二人にむかい、
 「お身たち二人のうち、カセギの多い方へナカを/嫁にやろう」*3
といいました。


 太郎と次郎だけれども兄弟ではなさそうだ。それから「敵同志のようにな」った「二人」は「魚とりの競争をはじめ」るのだが「その日」次郎は魚を釣り過ぎて舟が沈んでしまう。近くにいた太郎に助けを求めるが拒否されて行方不明になる。
 島に戻った太郎は次郎のことを聞かれても「そしらぬ顔」でその後も「平気で沖へ漁に出」る。そして「ある日」、「エッサ、ホイサ、エッサ、ホイサ……」との「元気なかけ声」が聞こえ、「みるみるうちに太郎の舟に近づいてき」た「小舟」には、「死んだはずの次郎」が「櫓を握ってい」た。
 以下、両者の対決場面を引いて置こう。93頁9行め〜94頁9行め、

 「お身は次郎? あだんして助かりやろう」
と太郎がいうのに次郎は答えず、
 「ヒシャクを貸してくれ! ヒシャクを貸してくれ!」
と、しつこく太郎にせがむのでした。
 次郎の顔は青白く、ほほがゲッソリとそげ落ち、髪はザンバラ、眼は狂ったように血走っていまし/た。
 この舟は、太郎を恨みながら死んだ次郎の亡霊が乗っている“亡魂船”だったのです*4
 このようなときは、どんなにせがまれてもヒシャクを貸してはならず、やむを得ず貸す場合には、/ヒシャクの底をぬいてから貸すものだそうです。【93】
 太郎は恐怖のあまり、そうしたことを忘れてしまい、
 「お身はヒシャクをあてにしやろ……」
といいながら、舟のアカ汲みのため準備している、柄の長いヒシャクを、次郎の手に思わず渡してし/まいました。
 「太郎! わがウラミを思い知れよう……」
と次郎はいいながら、海水をすばやくヒシャクに汲んでは、太郎の小舟に汲み入れるのでした。
 「次郎! われがわるくおじゃった。あやまるから助けてたもうれ」
と太郎が手をあわせてたのみましたが、次郎は海水を汲み入れる手を休めず、そのうち太郎の舟は水/びたしになって沈んでしまいました。


 この話は「佐吉舟」と題して「まんが日本昔ばなし」に取り上げられている。「まんが日本昔ばなし〜データベース〜」に拠るとNo.0398、昭和55年(1980)8月9日(土)放映である。夏にこういう陰惨な話を良く取り上げていた。
 文字と画像で詳しく紹介したサイトもある。私は某動画サイトで視聴した。放映時に見ていた可能性が高いが、記憶していない。最後にもう1人も行方不明になるのだが、某動画サイトでは「誰がこの話を伝えたんだよw」という突っ込みコメントが入っていた。全くだ。
 違っているところであるが、アニメで説明出来る場面を音声(朗読)にしていないこと、逆に文字では簡略に済まされていた場面をアニメと音声で潤色して描いていることで、話の筋は基本的に同じである*5。特に大きな異同は登場人物の名前が変えられていることで「太郎」が「太兵衛」に、「次郎」が「佐吉」に、そして「ナカ」が「ヨネ」になっている。「まんが日本昔ばなし」の各話にはタイトル画面の下右に、作画・脚本・文芸・美術・作画のスタッフが表示されるが、その左に都道府県・作者と版元が示される話と示されない話があって「佐吉舟」には表示がない。「まんが日本昔ばなし〜データベース〜」の「原作調査(出典本を調べる)」の「八丈島の民話(日本の民話40東京)」を見るにタイトル画面に「浅沼良次(未来社刊)より」との表示のある4話は『八丈島の民話』に依拠するものとされているが「タイトル部分に「出典名の明記が無かったもの」「県名のみ記載されていたもの」は、探しようがない」との理由で今のところ「除外」されているため「佐吉舟」は入っていない。とにかく未来社刊『日本の民話』シリーズは「まんが日本昔ばなし」の主要な出典となっているのであり、この話も『八丈島の民話』に依拠していると見て間違いないと思う。気になるのは登場人物だけでなく題も「佐吉舟」と変えていることで、子供は太郎・次郎では兄弟のように思い込みそうだから変えたのだろうが、では「佐吉」とはどこから出て来たのであろうか。
 なお探索を続けるつもりである。ぼちぼち。(以下続稿)

*1:この頁は上部に挿絵があるので1行の字数が少ない。

*2:ルビ「ろ」。

*3:「カセギ」の右に傍注「(漁量)」。

*4:ルビ「ぼうこんぶね」。

*5:細かいことを言い出せばいくらも挙げられるが、今はそこまで踏み込まないことにする。