瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小池壮彦『怪談 FINAL EDITION』(13)

 一昨日からの続きで第十七話孤独死」について。
 1行分空けて、最後にオチとなる段落がある。まづ、その冒頭3行を見て置こう。『異界の扉』26頁7〜9行め、

 この話を聞いてから半年後、平成十六年の六月一日、新聞を見てビックリした。
 ヤヨイに案内されたアパートから男性の死体が発見された。
 読売新聞の記事にこうある。


 本書58頁7〜9行めは、最初と最後の段落は一致するが、真ん中の段落が少し違う。

 弥生が言っていたアパートから男性の死体が発見された。


 ヤヨイが弥生になっているのはどちらも仮名「水野やよい」の表記違い。『異界の扉』では、2月2日付(11)に引いたように24頁8行め「現場に案内してもらった」ことになっていて、小池氏は「話を聞い」ただけでなく、9行め「古いアパート」を実際に見たことになっている。その上で11行め「しかし、女の子がひとりで住むようなアパートではない。」と書いているのだから、2月2日付(11)ではうっかり水野氏が「自分で見て確かめて諦めたように読める」と取ってしまったが、これは小池氏の判断と取るべきであった。まぁ、いつ24頁3〜4行め「だれも住んでなくてお化け屋敷み/たいになっ」たのか分からないが、水野氏が見付けた当時は居住可能だったとして「自分で見て確かめて諦めた」には違いないだろうが。
 問題なのはその次に引用される新聞記事である。
 本文は『異界の扉』(26頁10行め〜27頁3行め)により、本書(58頁10〜16行め)との異同を注記した。改行箇所は『異界の扉』を「/」、本書を「|」で示した。なおルビは本書にはない。また傍点は再現できないので仮に太字にして示したが、本書の方が増えているので、本書のみ傍点「ヽ」が打たれている部分は黒の太字、『異界の扉』にも打たれている部分は赤の太字にして示した。

「東京・池袋の住宅地にある廃屋*1の木造アパートを取り壊そうと立ち入った業者が今月一/日、男|性の白骨遺体*2を見つけた。台所のテーブルには昭和五十九年(一九八四年)*3二月二/十日付の新聞|の朝刊が置かれていた。警視庁池袋署では、男性は病死したとみているが、/遺体は二十年間、だれ*4にも気づかれなかった……*5
 記事には、近所の人の証言も載っている。*6
 やはり幽霊が出ていたらしい。*7
「ここ二十年くらい人けがなかったかと思えば、三年くらい前には急に部屋に明かりがついたりして、不気味な建物だった」(近所の男性会社員の話・傍点引用者)*8


 本書にあっては珍しく典拠を明示しているので、以前からこの記事は確認して置きたいと思っていたのだが、何となくそのままになっていた。そこで今回思い立って、新聞縮刷版を所蔵する図書館に立ち寄ったついでに、書庫から「読売新聞縮刷版」第47巻第6号通巻550号(2004年(平成16年)7月25日発行・定価5100円・読売新聞社・【16】+1748頁)出してもらって閲覧してみた。
 しかし、6月1日付(第46047号)の紙面を見ても、念のため2日付(第46048号)、それから何日か、社会面と地域面「都民版」を眺めて見たが、載っていない。時間がなかったのでそこまでで諦めて、しかし本当にこんな妙な記事が出たのか知らんと若干疑いながら、帰宅して改めて本文を確認してみると「今月一日」とある。6月1日付の朝刊に出ている訳はないし、1日付夕刊でも「今月一日」とは書かないだろう。載っているとしてもっと遅い時期、中旬か下旬に奇妙な話題扱いで出ていたのだろうとそこで初めて思い当たったのであるが、それなら「半年後、平成十六年の六月一日、新聞を見てビックリした」と云うのは変である*9。――昔の小池氏は、こんないい加減な書き方はしなかったと思うのだが……。(以下続稿)

*1:ルビ「はいおく」。

*2:ルビ「はっこついたい」。

*3:本書「一九八四年(昭和五十九年)」。

*4:本書「」。

*5:本書には「……」はない。

*6:ルビ「の」。

*7:本書にはこの行はない。

*8:本書は最後の括弧を一回り小さくして「・傍点任用者」を省いている。

*9:2月6日追記】かつ、この記事だけであのアパートだと確定出来るとは思えない――事件として報道されたのではなく、奇妙な話題扱いで日数を経った後に取り上げられたのだとすれば、詳しい所番地は出なかったろうから、余計に確認には時間がかかったはずである。記事を見付けて、小池氏が場所を知っていれば自分で見に行って、本書のように話に聞いただけなら水野氏に連絡して、という面倒臭い手順を踏んだはずなのだが、どうも、小説的な効果を狙い過ぎているように思われるのだ。