瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

恠異百物語(3)

 一昨日からの続きで、2話め(100話中の50番めという設定)を抜いて置く。

 
 さて、再びわたくしの番でございます、少し肩の力/を抜こうと存じます、
 わたくしの母校に、四階の一室だけ窓に格子がつい【16下】ておる教室がございます、わたくしは知りませんでし/たがこの学級に転入生がありました、地方の出身でご/ざいます、転校生が何に苦労するかと申しますと言葉/に苦労致します、元来が活発な性格の人らしいのでご/ざいますが、一言話せば笑われます、黙るよりありま/せん、あれは十一月になったころと思います、この男/は奇抜なことを考えました、二段になっている窓の、/真ん中を仕切る枠に足を掛けて、膝を掛けまして、逆/さまになってぶらぶら身体を揺すったのでございます、/――アブナイカラヤメロヤ、――ヘーキヘーキ、と申/しますのでみな黙って見ております、全員の視線が集/まったと見てようやく転入生も満足致しまして、下り/ようとしましたが、すくんでしまったものか、上手く/行きません、――ア、アア、と申しておりますうち、/しくじりまして落ちてしまいました、下はテニスコー/トになっておりまして、その排水溝の蓋に頭から落ち/まして、潰れました、コンクリートの蓋も鉄心ごと割/れてしまったと申します、それからしばらく経ちまし/て、その教室にだけ格子が付きました、蓋は血に染み/まして、近くの雑木林に捨てられました、それが、も/ううん十年経った今でも鮮やかな色をしていると申し/ます、【17上】
 灯心を一つ抜きました、これで半分と相成りました、/お次お願いします、


 これは私の中学の話で、格子ではなく窓の途中に横枠が渡してある程度だったと思うのだが、生徒が落ちた教室と云うのが私が1年生のときに過ごした教室なのだと言われていたように思うのである。しかしいつ聞いたか覚えていない。入学してしばらく経ってだったかも知れない。とにかく卒業するまでには何となく知っていた。中学3年生になって、その教室に、夜、自殺した先生の幽霊が出るとか云う話を同級の女子から聞いて、その女子は1年生のときは別のクラスだったのだが、どこからそんな話が出たのか、そこにいると却って具体的な話が出て来ないものか、そんな話を聞いたことがなかった私は不審に思ったものである。――しかし、今になって思い返してみると、産休代講で英語を担当していた女性教師を、凄まじい苛めと嫌がらせを加えて退職に追い込んでしまったことがあった*1。代わりに若くて体格の良い、声の大きい男の先生が入って、教師に対する苛めは収まったのだが……。
 ここに使った落ちたのが転校生だったとする話は中学3年生のときに、部活の後輩(A君)に聞いた話である。それまではせいぜい、4階のどこかの教室から誰か生徒が落ちたらしい、と云った程度の話であったのが、後輩は卒業生から聞いたとかで悲運の転校生だったと知っていて、それを私は自分の体験などと合成したのである。――今の私は同じ対象に関する話であっても、由来の違う話を一緒くたに混ぜてしまうのは宜しくないと思っているけれども、やはり小説仕立てにするには複数の話を混ぜないと成り立たないのである。(以下続稿)

*1:私は加害者にはならず、真面目に受けていたので、当時親しくしていたT君と私に助けを求めてきたのである。しかし、カリスマもない一生徒に過ぎない中1の私に救える訳もなく、困った表情をしてやり過ごすしかなかった。正直、名指しで頼ろうとされて迷惑に思ったのである。