昨日の続き。
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帰りは大町駅までバスで出て、それから貸切の夜行列車に乗り換えたのだと思うが、はっきり覚えていない。
すっかり暗くなった駅前のロータリーを歩いた記憶だけがあるのである。
だから、多分、ここまでバスで、ここから鉄道と云うことと思うのである。
雪のない、コンクリートの正方形のパネルが敷かれた歩道を、薄暗い街灯に照らされて1人歩いていると、同級生のU君に声を掛けられたのである。
「××、なごり雪の歌詞、知っとうか?」
見上げると、少しちらちらするようであった。
「さぁ」
と私が例によって曖昧に答えると、
きしゃをまつきみのよこでぼくわーとけいおーきにしてるー
きせつはずれのぉゆきがーふってるぅ、
とぉきょぅでーみるゆきはこれがーさいーごねーとー
さびしそうにーきみがーつぶぅやくぅ、
なごぉりーゆきぃもぉふるーときぃおしぃりー
ふざぁけーすぎぃたーきせぇつのあとでー
いまはるがきてーきみわーきれいにーなったあ
きょねんよりーずっとーきれいにーなったあ
……
と、呟くように歌い出したのである。
もちろん、普段話すような間柄ではなく、対立していたような連中でもなかったが、何故私なんぞに「なごり雪」なぞを歌って聞かせようと思ったのだが、まぁ偶然そんな気分になったのだろう。
別に上手くもないし、U君とは他に何の思い出もないのだ*1が、この一件を以て「なごり雪」には妙な思い出が出来たのである。尤も、どこかに引っ掛かった小骨みたいなもので、たまに繰り返し聞いたりとか、時季が来ると無性に聞きたくなるとか、そこまでの思い入れはない。ただ、何だか不思議な感覚とともに、大町駅前のロータリーで聞かされたことを思い出すのである。
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以上を書いてしまってから検索するに、大町駅ではなく「信濃大町駅」であることを知った。Google Earthで駅前の写真を見るに、30年近くを経てあまり変わっていないようであった。――はっきりした記憶ではないのだが、やはり私はこの駅前のロータリーを暗くなった空を見上げながら歩いたのである。
*1:2016年4月2日付「万城目学『鹿男あをによし』(2)」に書いた、陸上部のエースと東京で再会した折に、他に東京に出て来た高2のときの同級生として、U君がW大学の理工学部に現役合格した旨を聞かされたのだった。しかし、1度も会わない。陸上部のエースともその後1度も会わない。他に女子に1人、1度だけ会ったことがあるが、そのことはまた別に書く。【5月11日追記】5月10日付「かとー君の怪」に書いた。