- 作者: 織田作之助
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/08/27
- メディア: 文庫
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7月2日付(1)に述べたように、新潮文庫6557『夫婦善哉』は平成12年(2000)9月の四十一刷改版から余り間を置かずに平成25年(2013)1月に四十八刷改版が刊行された。
この間、平成19年(2007)に「續夫婦善哉」の原稿が発見され、2014年7月16日付「織田作之助「續夫婦善哉」(2)」に紹介した『夫婦善哉 完全版』が刊行された。新潮文庫6557『夫婦善哉』四十八刷改版の半年後、平成25年(2013)7月に刊行された岩波文庫31-185-2『夫婦善哉 正続 他十二篇』は、2014年5月20日付「織田作之助「續夫婦善哉」(1)」に見たように「続夫婦善哉」を収録している。
新潮文庫が四十八版改版に際して『完全版』と銘打って刊行されていた「續夫婦善哉」を取らなかったのは、見識を示したのか、それとも何か事情があったのか、とにかく7月3日付(2)に比較したように、四十一刷改版と四十八刷改版の異同はただ文字を大きくしただけで内容には何等増減がない。
ところが、僅か3年半後、平成28年(2016)9月に「続夫婦善哉」を収録した、この『決定版』を刊行するのである。そうすると新潮文庫6557『夫婦善哉』四十八刷改版に「続夫婦善哉」を収録しなかったのは、見識に拠ってではなかったらしい。
まづ、カバー裏表紙右上の紹介文を比較して見よう。新潮文庫6557『夫婦善哉』改版四十一版及び改版四十八版には、
芸者上がりと所帯を持った化粧品卸/問屋の息子柳吉は、勘当され、家を/出る。剃刀屋、関東煮屋、果物屋、*1/カフェと転々と商売を変えるがちっ/とも長続きしない。こんな男になぜ/蝶子は惚れるのか。たくましい大阪/人の、他人には窺い知れない男と女/の仲を描く『夫婦善哉』ほか、人間/の切ない感情を見事に謳い上げた/『木の都』など全6編。早世が惜し/まれる織田作之助の代表短編小説集。
とあった(行頭の二重鍵括弧は半角)。――妻子ある身でヤトナ芸者の蝶子と深い仲になり、頑固者の父に「勘当され、家を出」て蝶子と駆け落ちし、熱海で関東大震災に遭遇して大阪に戻ってから「所帯を持」つという順序だし、「惚れ」た時点では「化粧品卸問屋」の跡取り「息子」だったのだから「こんな男」だとは分からなかったのだが、これが『決定版』では、
惚れた弱みか腐れ縁か、ダメ亭主柳/吉に尽くす女房蝶子。気ィは悪くな/いが、浮気者の柳吉は転々と商売を/替え、揚句、蝶子が貯めた金を娼妓/につぎ込んでしまう(「夫婦善哉」)。/新発見された「続 夫婦善哉」では/舞台を別府へ移し、夫婦の絶妙の機/微を描いていくが……。阿呆らしい/ほどの修羅場を読むうちに、いとお/しさと夫婦の可笑しみが心に沁みる/傑作等織田作之助の小説七篇を所収。
となっていて、こちらはどうも「傑作等」の辺りが落ち着かない。
なお『決定版』の奥付の前に目録が13頁あって、最後の3頁は「新潮文庫最新刊」、その11頁めの5点めに「織田作之助著 夫婦善哉 決定版*2」があって下部の紹介文に、
思うにまかせぬ夫婦の機微、可笑しさといと/しさ。心に沁みる傑作「夫婦善哉」に、新発/見の「続 夫婦善哉」を収録した決定版!
とあって、こちらの方が「決定版」と添えた意義も強調されていて落ち着きが良い。(以下続稿)