瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山岸凉子「ひいなの埋葬」(6)

 8月29日付(5)の最後に断ったように、以下、本作の重要な問題点について検討します。所謂“ネタバレ”になりますので、新鮮な気持ちで本作を読みたいと思っている人は読まないようにして下さい。
山岸凉子スペシャルセレクションIX『鬼子母神』(6)
 梨本家は、8月23日付(3)に引いた弥生の従兄・進の発言にあるように「女系家族」なのですが、その原因は、3月3日の晩に、静音によって説明されます。
 雛の節句を盛大に祝った席で、梨本家の「御隠居さま」から、静音と影尾雪の婚約が発表されるのですが、375頁4コマめ「このたび 娘の静音とここにいる影尾 雪が婚約いたしました*1」と発表されています。「娘」は血筋の上では「孫娘」なのですが、娘夫婦が死亡した後に養女にしたのでしょうか。
 そして宴が果てて後、女中の淑から376頁2行め、「弥生さま おひな様のかざってあるお部屋でおまちくださいと静音さまが」と言われて待っていると、到着した2月28日以来、夜毎に弥生の前に現れた、静音にそっくりの謎の美少年・シズオが現れます。そして、静音がシズオと同一人物なのか別人なのか、同一人物として男なのか女なのか、混乱している弥生に対して、同一人物であることを認めます。
 そうすると、今度は男か女かが問題になりますが、377頁5コマめ、「その前にさ おもしろいこと おしえてあげようか」と言って、梨本家の秘密を語り始めるのです。377頁6コマめ〜380頁、

シズオ:「きみ ビクトリア女王の遺伝の話 しっている?」
弥生:「ビクトリア女王?」
シズオ:「彼女はある病気をもっていたんだ/もっとも彼女にはでなくてその子孫にだけでる病気さそれも男にだけ 」【377】
弥生:「男にだけ!?」
シズオ:「そう 学校でならったろう/伴生遺伝 /女が伝えて男にだけでる病気/色盲なんてその例さもうひとつ有名なのだが*2あるだろう」
弥生:(もうひとつ!?)
3月1日の晩に負傷したシズオの右手首の包帯*3
弥生:青ざめて「あ /け…血友病
シズオ:「そう どんなささいな傷からも出血がとまらなくて死にいたる病」【378】
弥生:「シ シズオ あなた…」
シズオ:「まって まだ話はおわってないよビクトリア女王血友病の保因者だった彼女の息子はみな死んだけれど娘たちは成人して/それぞれのヨーロッパ王家にとついだ血友遺伝子をもったまま……」
弥生:ゾク
シズオ:「かくてドイツ ロシア スペインと各国の王家に血友病はひろがったのさロシア革命の原因になったラスプーチンもロシア皇太子の血友病を一時なおしたから/あれだけ皇室に重くもちいられて権力をほしいままにしたのさ【379】ビクトリア女王の子孫の血友病でなくなった王子はじつに12人 8家族にわたるんだビクトリア女王の権力が強かっただけに 広がり方の規模も並とはちがうってわけ……悲劇だねえ/成人した男子は一人としていない みな女性がその遺伝病を伝えたんだ」
弥生:ゴク「あ あなた……あなた その病気なの まさか
シズオ:無言の横顔女系家族といえばきこえはいい……たんに男が育たないだけなのに」【380】


 380頁1コマめにはVictoria女王(1819.5.24〜1901.1.22)を第「Ⅰ」世代とする系図が示されています。左上に「○ □」とあって、この系図では全ての人物を○と□で示し、人名は主要な人物12名だけを右下の枠の中に示していて、1人めは「Ⅰ−2 英国ビクトリア女王」となっています。特に説明はありませんが「血友病の保因者」の女性は○の中に小さな●が入っており、血友病患者の男性は塗り潰された■で示されています。系図を見ると第「Ⅰ」世代はまづ□でヴィクトリア女王の夫Albert(1819.8.26〜1861.12.14)を示し、横線―で●の入った○(以下、仮に●とする)と繋いでおり、○の右上に小さく「2」と書き入れています。すなわち、枠に名前が列挙される12名については系図の□○の右上に小さく数字が書き入れられているのですが、これも数字が記入されていないものにも、ここでは仮に数字を当てて整理して見ます。数字の記入のある者は(実際には控え目に書き添えてあるのですけれども)数字を太字で示すことにします。(以下続稿)

*1:ルビ「むすめ・しずね・かげおきよし・こんやく」。

*2:「なのが」とあるべきで「だ」は衍字でしょう。

*3:この包帯を節句の祝宴の前に会った静音がしていたことから、弥生はシズオと静音が同一人物であることに気付きます。