・鈴木則文監督『ドカベン』（12）
やはり映画本編と付き合わせないとうろ覚えのところも多いので何とも不安だが、なかなかそこまでやって検討する余裕がない。――それでも、ざっとメモして置く。
山田は柔道部に入るのだが、その切っ掛けは雨の中、柔道部退部を希望する、最強の部員丹下に部長の木下（わびすけ）がその条件として勝負を挑み、負けてしまう。映画ではその直後に山田が通りかかって入部を頼まれると云う流れになるのだが、原作では山田は木下が一本背負いを喰らって気絶したところに駆け寄り、さらに岩鬼も絡むと云う展開になる（文庫版①78〜91頁）。放課後、山田が医務室に運んだ木下が礼を言いに現れ、ついでに柔道部部室で他の3人の部員とともに*1入部を懇請するのである（文庫版①94〜101頁）。
しかし山田は柔道経験がないことを理由に断り、丹下に柔道部復帰を頼むことを提案するのだが、ドカベンの一件を根に持って「やァまだはわいが殺す」とストーカーのように跡を付けている岩鬼が、柔道部に入るとわいが殺りにくくなると云う理由で、先回りして丹下に頼みに行き、断られて激昂し、張り飛ばして右脚を「複雑怪奇骨折」させてしまう（文庫版①107〜123頁）。――この辺りの流れは映画も同じだが、校医が岩鬼に骨折させられた「丹下 豪」のカルテを記入するところ、「病名」欄にブルーブラックの万年筆「複雑怪奇骨折」と記入し、日付は「初診52年４月21日」とある。
映画では9月21日付（10）に触れたように、喜劇役者の南利明が演じているので、もう1箇所の出番、メガネが脚を負傷する場面*2では鋸を手に脚を切断しようとするなど滅茶苦茶で、この「複雑怪奇骨折」も如何にも冗談めいているが、原作（文庫版①123頁）でも「医務室」で校医が山田に丹下の容態を訊ねられて、さらっと「そうだな…複雑怪奇骨折ってとこだな」と答え、山田は（ふ…複雑怪奇／骨折／だめか 大会までには治らないのか…）と、突っ込みもせずに（！）深刻に受け止めている。なお、映画ではメガネは部室で練習中に負傷して*3校医に診察されるが、原作（文庫版①151〜152頁）ではどこか別の場所・別の理由でネンザしたらしく、学ランに松葉杖を突いて号泣しながら部室に現れ、校医は登場しない。
結局、山田と岩鬼が2人の穴埋めのため（岩鬼は山田を殺るため）に入部することになるのである。
その前に、弱小故に他の運動部に物置として利用されていた柔道部の部室から、山田が他の運動部の備品を片付け、それに気付いた運動部の連中に因縁を付けられる場面（文庫版①128〜139頁）があるのだが、映画ではそこで剣道着の平手とサシで勝負（と云っても平手の竹刀に拠る打ち込みを、身構えた山田がただ受け続けると云うもの）することになるのだけれども、原作では山田にとってのもう1人のストーカー的存在である長島が、道理で理不尽な他の運動部を引き下がらせ（文庫版①139〜141頁）、そして出直してお礼参りに来た運動部の連中に対し、山田が「一対一の勝負」を申し出、平手に一方的に打たれることになっている（文庫版①153〜169頁）。原作の平手は学生帽に色（赤か黒か不明）の長袖の肌着に学ランを羽織っており剣道着ではない。映画では顔色がどんどん悪くなって、最後には何故か泡を吹いて仰向けに倒れてしまうのだが、原作では疲れ切って踏ん張りきれずに頭からのめり込むように倒れてしまう。いづれにせよ山田の勝ちである。
しかし、何回竹刀で打たれたのか知らぬが、いくら鍛えた身体でも皮膚や血管はただでは済まないと思うのだけれども。
この間に、岩鬼が自分の部屋の、山田の祖父（じっちゃん）によって新調された畳を柔道部に持ち込む件がある。じっちゃんが岩鬼家の畳を全て作り終えたと思ったらまだ1部屋畳が入っていないと言われて驚くのは同じだが、原作では岩鬼が畳を持ち出すところがサチ子に目撃されており（文庫版①145〜148頁）、また柔道部を訪ねて来たじっちゃんによって「なんでわしのつくった畳がここにある？」とバレる（文庫版①174〜176頁）のだが、映画ではどうも、タダ働きさせられたらしい。しかし、縁が付いた畳で柔道の稽古は危ないと思う*4が映画ではその点に突っ込んでいない。（以下続稿）
