瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(15)

鈴木則文監督『ドカベン』(13)
 丹下は映画では「複雑怪奇骨折」させられた後は登場しない*1が、原作では柔道部に留まっていて、登場人物の心境について解説的な感慨や台詞を口にするなど、隻眼だが真実を見抜く眼力を持っており、大会の対戦校の情報を伝えたり、団体戦では岩鬼の不在時に出場して勝利するなど、改心してからはなかなか頼り甲斐のある存在となっている。
 岩鬼が大会に姿を現さないのは対戦相手・花園学院の主将・影丸の姉・亜希子が、兄の岩鬼清彦の婚約者で、婚約が破棄されることを恐れた母や兄たちに出場を禁じられたためである(文庫版②27〜32頁)。
 岩鬼影丸のことを知ったのは、原作では部室に現れた丹下が気を付けるように忠告するのを聞いてで、早速先回りして影丸を空き地に呼び出して野試合を挑むのである。いくら投げられても余裕をかましている影丸に、最後は「バックドロップ投げ」で敗北するのを、買物帰りのサチ子に見られてしまう(文庫版①197〜212頁)。映画では4月29日の天皇誕生日の昼、わざとらしく(?)横浜港にマリンタワーを写してから「HAKURAIYA」と云う軽食屋をクローズアップし、その店内で明訓ソフトボール部の面々6人が私服で、長島の写真を見て盛り上がっている場面に繋ぐ。そこに海軍風の制服を着た花園学院柔道部の5人が入って来て、夏子たちをからかう。夏子が言い返すと影丸の大きな写真と「神奈川県高等学校柔道優勝大会連覇成るか花園学院」「影丸主将は語る/“花園に敵なし”」という記事の載る「昭和52年4月28日  水曜日」付の「‥‥スポーツ」紙を投げ付けられる*2。そこに岩鬼が現れてこのスポーツ紙を見せられ、夏子たちにも煽られて*3影丸と勝負することになって、後の展開は原作と同じだが夏子(とコカコーラの看板)の前で惨めに負けると云うより屈辱的な展開になっている。
 影丸と山田の邂逅は、原作(文庫版①176〜185頁)では、交通事故に巻き込まれそうになったサチ子を影丸が助けることで(このときは名乗らない)だが、映画ではサチ子を助けるのは賀間になっている。柔道の決勝で死闘を繰り広げる賀間との伏線とした方が効果的と判断したのであろう。なお、原作*4では暴走して来た乗用車がガードレールに突っ込んで来るのだが、映画では片側2車線(?)の道路の、ガードレールで仕切られただけの歩道をサチ子が買物帰りに歩いていたところ、反対側の歩道を歩いている山田に気付いてガードレールから身を乗り出して声を掛けているうちに買物袋ごと車道に落ちてしまうと云う頗る危険な展開であった。この、サチ子が車に轢かれそうになって賀間に助けられる場面のロケ地については、モリリンのブログ「まんじフラワーショップ 別館」の、2015-09-21「ロケ地「ドミンゴ」 その3」に報告されている*5
 原作ではこの後、花園学院柔道部の団体戦出場者のうち、主将・影丸を除く4人が鷹丘中(原作では中学生なのである)にお礼参りにやって来て*6、山田を岩鬼と勘違いして空き地に連れ出す。山田はわざと技を掛けられて敵情を探るのであった(文庫版①215〜227頁)が、映画では先述の通り他の部員たちの前で影丸岩鬼を倒すので、このような展開にはなっていない。
 その積み重ねの上で山田は、長島に投手として球を投げさせ、ホームベースで受けた山田がその球を内野に散らばった柔道部員たちに投げ付けるのを、避けることで身のこなしを練習すると云う発想を得るのだ(文庫版①241〜273頁)が、映画では花園学院と山田の野試合も、岩鬼が野球部員の空振りを笑ったことでまた勝負することになり、岩鬼が投手として剛速球で野球部員たちを空振りさせ、最後に長島を敬遠することで「わいのタマを打てるやつは ひとりもおらんわい」と云う勝負に逃げて勝つのを見てヒントを得る場面(文庫版①229〜240頁)もないので、唐突に山田が妙な、何の役に立つのか良く分からない特訓を思い付いたように、見えてしまう。
 それから原作(文庫版①274〜302頁)ではサチ子をヒントに足技に活路を見出すのだが、これも男湯にサチ子が入るシーンがあるためか(違うと思うけれども一応)省かれている。さらに白帯を大河内生徒会長らに笑われ、黒帯を得るべく講道館に乗り込んでお偉方を前に「黒帯くれ」と言って非礼を働く岩鬼を止めに行き、岩鬼の巨体を豪快に投げ飛ばしたことで講道館の師範代・伊賀谷栗助*7にも目を付けられてしまうのだ(文庫版①302〜322頁)が、映画には伊賀谷師範代は登場しない。(以下続稿)

*1:2019年1月1日追記】これは事実誤認で、11月1日付(36)及び11月2日付(37)に述べたように、丹下は映画のラスト、何故か野球部員として(!)再登場している。

*2:記事本文は無関係のプロ野球の記事、見直す余裕のない映画館での上映の観覧を原則としていた頃にはこれで良かった訳だ。なお4月28日は木曜日。

*3:11月6日追記】当初、ここに「屋上で」としていたのを削除。大きなコカコーラの看板の前なので、建物の屋上かと勘違いしたのだが、再見するに、お互い技を掛けて土の上に倒されている。公園か、それにしては看板が目立つが、とにかく屋上とは思えない。

*4:11月6日追記】何故か「映画」としていたのを「原作」と訂正した。

*5:10月21日追記】当初「モリソン」としていたが「モリリン」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。【2020年8月22日追記】現在「まんじフラワーショップ 別館」のリンクは本館に当たる「ロケ地まち案内」に飛ぶようになっており、「ロケ地「ドミンゴ」 その3」は見当たらない。

*6:11月15日追記】「鷹岡」を「鷹丘」に訂正した。

*7:20年後の、福井英一『イガグリくん』の主人公・伊賀谷栗助であろう。