瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

手塚治虫『ブラック・ジャック』(3)

大林宣彦監督『瞳の中の訪問者』(3)
 本作(映画)については記憶に頼って書いているので、ここでは原作「春一番」(秋田文庫版『BLACK JACK①』28〜46頁)を基に、異同を確認して置くこととする。
 患者の千晶は、原作では女子高の生徒である。33頁2コマめ、5人で同じ制服で歩いており5コマめ、太った友人の言に「ウフッ うちの学校 男の子がいないからだねーっ」とある。
 症状は角膜白斑で、ブラック・ジャックは外科医だから28頁5コマめ、「そりゃあ眼科の手術は私の専門外だがね/白斑症の手術は面倒じゃァない」と言っている。
 ブラック・ジャックは28頁6コマめ、「いちおう成功はしたつもりだよ」と言うのだが、千晶は8コマめ〜29頁1コマめ、手術後に「暗いところとか……目をつむったりすると……背が高くてハンサムな男の人が立って あたしをジーッと見つめてるのが見えるんです」と訴えるのである。
 当初ブラック・ジャックは、29頁2コマめ、「おまえさんの気のまよいさ…………」と云う見解だったが、34頁1〜2コマめ「二か月もたったのにまだ見えるって?」と訴えられて、真相究明に乗り出す。7コマめ「角膜移植手術なんかで/私がミスったなんてことは私にとってなんとも不名誉なんだっ」と云う理由である。
 映画では小森千晶(片平なぎさ)は女子大生で、硬式テニスのペアを組んでいる南部京子(志穂美悦子)とは女子大の寮でも同室である。
 目の手術が必要になったのは、テニス部のコーチ今岡宏(山本伸吾)が千本ノックのような勢いで打った球が直撃したためである。千晶・京子のペアはインターハイを目指しており、今岡コーチと千晶は(まだ交際していないが)相思相愛で、そのためつい指導に力が入り過ぎて、球を打つ力が強くなり、打つ間隔に余裕がなくなってしまったように描写されている。
 従って、愛と責任感から今岡コーチが千晶の回復のために奔走し、ブラック・ジャックに手術を依頼し、ブラック・ジャックが無免許医のため利用出来ないと云うアイバンクから、角膜を盗み出すのである。手術は成功するが、原作同様に男が見えるようになる。見えるタイミングはシャワーや雨が降っているときで、千晶と京子が練習後にシャワーを浴びるシーンでは、監督に危うく脱がされそうになったそうだ。それはともかく、原作で千晶が見る男は静止画で、7回(29頁1コマめ・32頁4コマめ・33頁2・3コマめ・37頁7〜9コマめ)描かれるが同じ恰好である。ところが映画ではこの男(峰岸徹)は動くので、青いマントを羽織って左から歩いて来て正面を向き、指を外から順に折るような手つきを見せる。
 千晶がこの男のことを好きになってしまう展開は同じだが、自分も今岡コーチのことが好きなのに千晶への友情と今岡コーチの幸福のため、コーチへの思いを綴った(と思われる)日記を破り捨てて気持ちを決めた京子が、今岡コーチと協力して「瞳の中の訪問者」風間史郎(峰岸徹)に出会って、行方をくらませてしまった千晶の後を追い、すんでのところで千晶を救うのである。
 原作には友人や恋人は登場しない。危うく殺されそうになったところをブラック・ジャックに助けられるのだが、犯人の人物像はかなり異なっている。(以下続稿)