瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(18)

鈴木則文監督『ドカベン』(16)
 映画のヒロインは朝日奈麗子(山本由香利)と云う名前だが、原作ではフルネームでは呼ばれていない。しかし「麗子」ではないらしい。では何と云う名前かと云うに、――山田の「八百長」について大河内生徒会長に意見しようとしたとき、文庫版②280頁6コマめ、夏子が例の「中学柔道荒らし出現/人呼んでミイラ男!!」の記事の載る新聞を手に、大河内・朝日奈・岩鬼・山田らの所属するクラスに駆け込んで来るのだが、そのときに「アッコ」と呼び掛けている。苗字に由来するとは思えないからアキコかアツコなのであろう*1
 さて、生徒会長の大河内と、副会長の朝日奈アッコは、同じクラスつまり同学年なのだから生徒会役員としての任期も同じはずである。ところが、いないのである。
 かつてのライバル・小林真司の出現により、再び野球を始めることを決意した山田が、その少し前にエース・長島の退部*2に伴って現役部員が大挙退部してしまい存続の危機に立たされた野球部に移って勝手にエースで四番で主将を名乗っていた岩鬼の命令により、プラカードを持って部員集めに校内を回ることになる。そこで大河内生徒会長に生徒会室に連れ込まれてやめるよう注意される(文庫版⑤64〜70頁)。そのとき、会長の他に生徒会役員らしき人物が4人いるのだが、女子は大河内生徒会長に顔の似た、やはりメガネを掛けた1人がいるだけである。たまたまいなかっただけなのかも知れないけれども。
 しかし、9月28日付(16)の後半に取り上げた、東郷学園との試合で、山田と小林投手との対戦で、岩鬼の治療時間を稼ぐために24球粘る(18球ファウル)場面、岩鬼が主将のチームに期待していない生徒・教職員は誰も応援に来ておらず、ラジオ放送も誰も聞いていないのだが、賀間が鷹丘中に現れて*3無理に全校放送して意外に接戦に持ち込んでいることを知らせる。その中に描かれる生徒会室(文庫版⑥128頁2〜3コマめ)には3人、眼鏡の男子1名は先述の場面と同一人物のように見える。もう1人の太った男子は先述の場面には見えなかった。もう1人、眼鏡の女子は短髪で、先述の場面の長髪とは異なるが眼鏡は共通しており同一人物と見ても良さそうである。――その後、最終回7回裏に、賀間が鷹丘中の教職員や生徒を引き連れて応援に駆けつける(文庫版⑥242〜267頁)のだが、その中にも姿は見えない。
 これまで、山田の姿勢や実力を評価していた様子からすると、むしろ学校全体の空気に同調せずに、応援に来ていても良さそうなくらいだと思うのである。しかし校内及び球場に駆けつけた中に夏子の姿も見えないところからすると、ソフトボール部は試合か何かで不在だったのであろう*4
 しかし、そのソフトボール部でも、前回触れた、アメリカ柔道4人組の道場破りを挑発する場面までは、必ず夏子と一緒にいたのだが、告知板に貼られた生徒会の「野球大会」の掲示を見て、生徒たちが「応援のしがいがない」とか、監督に投手ではなくサードに入るよう命じられて不登校になってしまった岩鬼について噂しているのを、通りかかったソフトボール部員たちが聞くのだが(文庫版⑤208頁)、先頭を歩く夏子に、眼鏡の1人と、簡略に顔を描いたもう1人が続いて、朝日奈アッコは一緒ではないのである*5。中学3年のクラスメイトの中に見えないのはクラス替えのせいかも知れないが、しかしそのまま、姿を現さない。3年生2学期の「期末テストベスト20」位を張り出した掲示を見る場面(文庫版⑦40〜41頁)、1位は生徒会長の大河内光で「野球部とふたまたで自信はなかったんだけどな」と謙遜する(文庫版⑦40頁2コマめ)のだが、その横にいるのが朝日奈アッコに似ており、同じ生徒はもう1度、大河内の後ろに立っているのが薄く描かれている(文庫版⑦41頁3コマめ)が、朝日奈アッコだとしてもこれでは完全な端役扱いで、前回挙げた場面のような存在感は、全くない。
 なお、大河内は先述の山田を生徒会室で注意した場面(文庫版⑤64〜70頁)で、岩鬼が長島の野球部復帰を知って復帰しようとした他の元野球部員たちの再入部を拒んだことを問題にしたところ、逆に山田に「きみたちのように口でとなえるだけじゃなく岩鬼くんは‥‥」云々と反論され、そこで「口でとなえるだけ」ではなく「行動力」も備わっていることを示すために野球部に入部するのである(文庫版⑤76〜77頁)。いや、大河内生徒会長はかなりアクティヴな生徒会長だったと思うのだけれども。それから、3年生の2学期の期末まで生徒会と兼任のままだなんて、ちょっと任期が長すぎやしないか。
 映画でも大河内会長は野球部に入るのだが、その理由はきちんと説明されていたかどうか、……今、覚えていない。そう云えば柔道部員たちも野球部に移って来ているようで、原作では柔道部から野球部に移るのは岩鬼と山田だけで、他の部員たちは柔道部のまま卒業する*6のだが、映画では烏合の衆の鷹丘中野球部を明訓高校野球部のこととしているので、キャプテンの土井垣も、山田とバッテリーを組む里中も登場しない。土井垣が出ないのは仕方ないとして、里中はオープニングのクレジットの間に挟まれた原画で2回(【11】【19】)登場していたにもかかわらず登場しないので、ちょっと詐欺めいている。(以下続稿)

*1:アヤコでもアユコでもアサコでも良さそうな気がするが、……どんな名前がどう訛って呼称されるのか、そんな研究が存在していないだろうか。

*2:この退部の理由について、別に記事にする予定である。

*3:11月15日追記】以下全て「鷹岡」となっていたのを「鷹丘」に訂正した。

*4:文庫版⑤263〜269頁、東郷学園との試合の前日、コントロールの全く定まらない岩鬼の投球練習の相手を引き受けているくらいだから、来なかったのには何か理由があったはずなのだが、球場で岩鬼がこのことを気にしている(文庫版⑤287・293〜294頁・文庫版⑥73〜74頁)ばかりで、試合の直後にも、理由を説明するような場面はないのである。

*5:当初は夏子と朝日奈アッコの2人がソフトボール部の中心メンバーのように、常に集団の先頭に一緒に描かれている。なお、キャプテンには夏子が就いているが、朝日奈は生徒会役員を兼ねているからであろう。【10月18日追記】「新生鷹丘中野球部」の様子を見に夏子たちソフトボール部員が野球部の部室を訪ねる場面(文庫版⑤112〜113頁)で、喋るのは専ら夏子(112頁1コマめ、2コマめ、113頁1コマめ)で、他に112頁1コマめには眼鏡と三つ編みの2人が、そして113頁1コマめには朝日奈アッコに似たもう1人が夏子とともに描かれているが、台詞もなく顔もしっかり描かれておらず、完全にその他大勢扱いである。

*6:文庫版⑦77〜78頁。卒業する3年生は4人で、9月26日付(14)に触れたネンザはとっくに快復しているはずのメガネが、試合に出場しなかった(そう云えば応援にも来ていなかった)せいか、すっかり忘れ去られ、その後に復帰した姿も描かれていない。【10月9日追記10月9日付(20)に注記したように、中学3年に進級した直後には柔道部にいた。