瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(36)

鈴木則文監督『ドカベン』(26)
 丹下が柔道部を辞めることを希望する理由が、原作とはちょっと違っている。
 原作では、木下は丹下に負けたことを部員に説明していない。山田との話の流れで打ち明けるのである。それを受けて、部員たちが事情を説明する(文庫版①98頁)。

山田:「負けたってそれはどういうことだい」
大丸:「あいつさ こんな落ちぶれた柔道部なんかにいたって目だたないからやめるって言ったんだ」
目無し:「あいつ 女生徒のあこがれの的になりたいんだよ だから野球部に行くって言ったんだよ」
メガネ:「野球部は長島というスターがいるから人気あるしな」
大丸:「それでさ 木下がたのんだけど聞いてくれないんだだから勝負して木下が勝ったら丹下は柔道部やめないという約束で………それで」
山田:「ケンカを売ったってそういうことだったのか」【98】


 この原作を読んだとき、映画と違うと思ったのだが、どう違うか覚えていなかったので再見の機会を待っていたのである。
 本作では、木下1人に台詞をまとめて「運動部の中で、柔道部が一番弱小なんだ。1人去り2人去りして、今は部員がこれだけしかいない。俺が決闘した丹下も、レスリング部からスカウトされて、退部したいと言って来た。でも、一番強い丹下がいなくなったら、廃部に追いやられるかも知れない。それで、俺に負けたら、柔道部に残ると云う約束で決闘したんだ」と説明し、以下部員たちが自己紹介をする。
 なお、山田に柔道部入部を頼むこの場面、部室の入口の張り紙にサインペンで横書きで「大募集柔道部/主将 ⅡD 木下まで」とある(1行めの下に赤の下線)のが写る。
 それはともかく、いくら人気があるからと云って、いきなり野球部に入って「女生徒のあこがれの的」になれるだろうか。ちょっと野球を舐め過ぎである。同じ格闘技のレスリングの方が(と云って、私はつかみ合ったり殴り合ったりするのが苦手なので、野球より簡単なのかも実は良く分からないのだが)まだ何とかなりそうだ。
 だからこの転部先を「野球部」から「レスリング部」に変えたのは合理化として評価出来るのではないか、と思ったのだが、結末を見ると映画はもっと凄いことになっているのである。
 ――長島が山田の入部を野球部に復帰する条件として提示したため、生徒会は山田の野球部入りが認める。この辺りの経緯は10月11日付(22)に述べたが、長島・山田バッテリーを柱に新生野球部が始動するのは良いとして、何故か練習を始めたところで出て来るセカンドがメガネで、ファーストが丹下、ショートが目無し、サードが大丸、そしてレフトには殿馬がいる。この7人で練習しているところに、大河内生徒会長が自転車で「君たち、大事な人を紹介するぞ」と言って、後ろに乗せて来たのが「紹介しよう、今度野球部にいる、我々生徒会が招いた、元プロ野球南海ホークス徳川家康監督だ」と、原作の生徒会長も、10月10日付(21)に見たように転校届を受理するなど(文庫版④274〜280頁)えらい権限を持っていたのだが、元南海選手を監督に迎えるのか、元南海監督までやった人を監督に迎えるのか、どちらなのか明瞭でないが、とにかくそんな人物を連れてくるのである。どれだけ調査能力&実行力があるんだ。
 そしてこのときは学生服姿だった生徒会長も、次の場面では何故かユニフォームを着た野球部員になっているのである。10月7日付(18)のような理由もない。柔道部員が野球部に移った事情についても、何の説明もない。但し木下はいないらしい。――しかしながら、なんだかわくわくするのである。
 そして最後にバックネット裏で拍手する、サチ子と赤いユニフォーム姿のソフトボール部員9人の前に野球部のユニフォームを着た岩鬼が現れ、

岩鬼:「大声援に応えて、男岩鬼、ただいま参上。わいを抜かしたら、野球部再建はでけへんで」
山田:「岩鬼君」
岩鬼:「ゃ、やァまだ、わいがちょっと出てへん間に主役面しやがってぇ」コカコーラ(250ml缶!)を飲む夏子の方を向いて「な、夏子はァん。わいが主役でんなぁ」と囁く
徳川:「こら岩鬼、甲子園やで。しごいてやる、来ぉい」

と、9人揃うのである。――なんで急に自転車で連れて来られた酔っぱらいが岩鬼を知ってるんだか。
 そして10月20日付(30)に触れたように殿馬が惜しげもなく秘打白鳥の湖を披露し、他の急造部員たちもめきめきと実力を着けて、原作では全く役に立たなかった大河内生徒会長も、横っ飛びでライナーを捕ったり大活躍である。
 まさに怒濤の大団円で、私なぞは何故か心躍ってしまったのだが、しかし、やはり、おかしいのである。(以下続稿)