瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(43)

鈴木則文監督『ドカベン』(33)『東映ゲリラ戦記』(2)
 昨日の続きで、152〜161頁「漫画原作をストレートに「実写再現」しようとする男の深層について ドカベン」の記述を見て置こう。
 鈴木監督が本作の監督を依頼されたときの応対は、153頁10行め〜154頁8行め、

 翌年の正月映画『トラック野郎 天下御免』が完成した一九七六年の十二月某日。
 企画部長の天尾完次から突然に、一九七七年のゴールデンウィーク作品『ドカベン』の/監督をとの依頼を受けた。
 水島新司作『ドカベン』は三〇〇〇万人の読者をもつ超ベストセラー人気漫画であり、/例年の「東映まんがまつり」でジャリすくいの実績を誇る東映としては、今年のG・Wは/低年齢層にターゲットを絞ることにして、特撮ものの『恐竜・怪鳥の伝説』との二本立て/と決定したという。何故俺に?! と言うと天尾は、『ドカベン』は主人公の山田太郎以下/主要人物三人の高校生役は一般公募者の中からオーディションで起用する、と言う。
 出演場面も多い三人は全員素人であるから、選定を間違えたら大失敗の映画になる危険【153】がある。
 ゲリラ時代、素人の中から原石を発見し、成功した実績がある君に賭けたのだともっと/もらしく言う天尾に、わたしは答えた。
 もともと俺はスターシステム信奉者で、主義主張映画よりスターの魅力が映画を輝かせ/てくれると思っている人間なんだ。やっとノースター映画から足を洗ったと思ったのにま/た素人主演のゲリラ仕事に俺を引き戻すつもりか。俺の映画監督としての理想像は、会社/の用意してくれた商業作品を有難く撮らして頂く職人気質の御用監督なんだ。俺の通俗志/向は助監督時代から君もよく知っているはずじゃないか。

と言って固辞したのであった。
 『トラック野郎 天下御免』は第四作。――「素人」で「成功した実績」と云うのは、前回引用した中に名前の見えていた池玲子(1954.6.25生*1)と杉本美樹、それに公開当時は興行成績の悪かった『聖獣学園』の多岐川裕美(1951.2.16生)辺りであろうか。
 「主要人物三人の高校生役」の「選定を間違えた」とは思わないが、成績としては「失敗」だったようである。やはり、明訓高校が舞台となっているのに話の内容が中学時代がメインで設定が異なっており、当時全くの野球漫画になって久しかったのに、野球ではなく柔道に偏していたこと、当時の『ドカベン』人気の一翼を担っていた里中が登場しなかったこと、棒読みの台詞が「下手」だと思われたこと、――私は野球の話では間が持たなかったと思うし、棒読みについては素人を演出する上で必然であった思うのだが、台詞回しにはアニメという比較対象もあった訳で、2本作られた「特報」の2本めに「全国3,000万少年ファンの/期待をこめて....」とある、読者のどのくらいの人数が映画館まで見に行ったのか行かなかったのか、その行った「少年ファンの期待」を満足させる内容とはなっていなかったのである。(以下続稿)

*1:池玲子の生年月日は『東映ゲリラ戦記』27頁12行めに拠る。