瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(49)

 一昨日からの続き。
・選抜決勝土佐丸高校戦での回想(3)殿馬
 最後が、延長12回裏に犬養武蔵投手からサヨナラツーラン「秘打円舞曲別れ」を打つ殿馬の回想(151〜155、157、159〜162、164〜171、173〜175、188頁)である。殿馬は「学秀院中等科」で「日本音楽アカデミー賞」のピアノ部門への推薦候補になるほどの技能の持ち主であったが「指が短」いため「課題曲ショパンの円舞曲“別れ”」の「第三楽章」*1で指が回らなくなってしまう。そこで指と指の股の部分を少しずつ切除して、指が広がるような手術*2を、このような手術を手掛けてくれそうな薮居整形外科の院長に無理に頼んでやってもらう。結局、選考までに回復せずライバルの名ピアニストの息子が出ることになり、殿馬は学秀院中等科を中退するのである。その理由がなかなか凄いことになっている。
 犬神の四球(7頁)の影響で握力のなくなった山田(74〜83頁)が、ゴム鞠を握ることで回復し始めた(141〜142、171〜173頁)のを見て、殿馬はこんなことを思うのである。173頁5コマめ〜175頁3コマめ、

(おれを野球にひき入れただけのことはあるづらぜ学秀院を中退して鷹丘中に転校したのは町で山田とであったからづらよ……少々のことにゃおどろかんこのおれも あの時のショックは強烈だったづら【173】
回想
〔山田:「ち ちこくする」カラン コロン コロンカラン コロン
殿馬:(でっけぇづら/あのちっこいずんぐりむっくりが ま まるで大仏さんのようにでっかく見えたづらぜ)〕【174】
(因縁づらな あの日 山田も鷹丘中に転校してきた日だったづらとは やたら図体のでっけえ岩鬼を見たあの日づら 運悪くけんかのまっ最中にとびこんでいったづらが)
回想
岩鬼:「ぬな」
山田:「はあ/はあ」カラーン コローン
岩鬼:「おい 転校生 おんどりゃ あいさつなしにだまっていく気ィかいな」
山田:ツツ〕
殿馬:(そいつらと今こうして野球をやってるづらとはなァ/こういう青春もまたよかろうづらぜ)


 なんと、殿馬まで山田ストーカー(?)だったことになっている。しかしこんな理由で転校するものだろうか。
 それはともかく、175頁1コマめは文庫版①6頁の1コマめを写したらしく、角度が若干異なるものの、擬音と吹出しの異同は岩鬼の台詞が「ぬっ」となっているのみである。ちなみに174頁1コマめ、山田の走る姿を見上げるように描いているのは、文庫版①6頁の2コマめの走る山田を、校門内から校外の歩道に移したもので、それに殿馬を描き加えたような按配なのである。なお、この「ち 遅刻する」と言って走る姿は、映画冒頭の朝日奈書店の脇にあった看板に、見上げるのではなく正面から描かれていた。
 しかし175頁2コマめの岩鬼の台詞は、文庫版①9頁4コマめに、

岩鬼:ギラリ「あ…あ あいさつなしでだ…だまって行く気ィかいな」

と、挨拶の要求は見えているが、山田が転校生であることは文庫版①19頁、山田が自分たちの教室にいるのを見て初めて分かるので、校門内での初対面ではまだどういう存在なんだか分からなかったはずである。(以下続稿)

*1:ショパンのワルツ(円舞曲)で「別れ」と云えば2015年12月24日付「Géza von Bolváry “Abschiedswalzer”(2)」に取り上げたワルツ第9番(作品69の1)であろうが、短い曲でそんなに技巧的でもない。全く架空の曲なのか、さもなければ何か別の曲を意識して描いているのであろう。

*2:原作では、170頁6コマめ「指の根元を切ったという手術」とあるが、イラスト込みでないと理解しづらい。