瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(53)

・山田と初対面時の里中(1)
 11月14日付(48)にて、高2の選抜決勝、土佐丸高校戦での里中の回想について検討したのだが、どうも当初の設定とは食い違っているようなのである。
 そこで当初の設定を確認すべく、初登場した場面で里中が語っているところを眺めて見よう。
 文庫版⑥286〜293頁、鷹丘中野球部が東郷学園中野球部に敗れて恐らく数日後である。
 山田が帰宅すると座敷にボサボサの髪型の、俯きがちで上目遣いの、やや陰気な少年が学ラン姿で正座している。家を間違えたと思った山田だが、表札は「山田」だし*1サチ子にも「おにいちゃんどこへ行くのよ」と呼び止められて、入り直すと、件の少年が口を開く。287頁5コマめ〜288頁(4コマめ)、

里中:「山田太郎くんですね」
山田:「うん」
里中:「留守中におじゃまして申しわけありません/ぼくは里中智といいます 山田くんにお聞きしたいことがあって来ました」【287】
山田:「どんなことですか?」
里中:「はい山田くんの進む高校を教えていただきたいんです」
山田:「こ 高校……ぼくが!?/でもぼくは高校には行かないよ 畳屋になるから」
里中:「いえ きみは絶対に高校へ行きます 絶対に……/それがきみの運命です」
山田:「き きみ/そんなこと……」【288】


 見た目も陰気な上に「運命」だなどと少々不気味なことを言う。こういった感じが土佐丸高との選抜決勝戦での回想ではなくなっている。「チビ」とバカにされたことに反撥して殴り合いの喧嘩を始めるなど、負けず嫌いの陽性の性格だったことになっているのである。
 なお、289頁1コマめは以下のように繰り返しになっている。

山田:「ぼくが高校へ行くかって………/待ってくれよ ぼくは進学しないよ 畳屋をやるんだから」
里中:「いやきみは絶対に高校へ行くよ/それがきみの運命なんだから……」


 すなわち、連載時は288頁・289頁間に切れ目があったので、289頁1コマめに再確認する必要があった訳なのだが、水島氏は楳図かずおのように*2に単行本化に際して重複を整理しないので、このような連続するコマが単行本『ドカベン』には多々見られるのである。(以下続稿)

*1:この当時は「山田畳店」みたいな大きな看板を掲げていなかった。

*2:私が取り上げたのは『ミイラ先生』だが、同じ時期の他の作品についても同様の指摘が出来る。なお『ミイラ先生』のテキストの(不完全な)検討は2015年6月17日付「楳図かずお『ミイラ先生』(08)」までで中絶している。――最後までやっても良いのだが、変則的なテキストである講談社漫画文庫版を真面目に扱う意欲が失せている。