瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(54)

 本題に入る前に力尽きてしまった昨日の続きを見て置こう。
・山田と初対面時の里中(2)
 289頁2コマめ〜291頁4コマめ、

山田:「運命? そんなきみ かってに決めてもらっちゃ…だいいちぼくの高校進学ときみとどういう関係があるんだい」
里中:「ぼくも高校進学希望のひとりだからです」【289】
山田:「するときみは高校へ行って野球をするのかい」
里中:「そうです 中学野球でぼくは悔いを残してしまった その分を高校野球で挽回したいのです」
山田:「どこの中学」
里中:「東郷学園です」
山田:「えっ東郷学園? 小林さんのいる学校じゃないか」
里中:「そうです ぼくは投手でした……補欠でベンチに入れませんでした」
山田:「それは不運だったね……だってきみには悪いけど小林くんがいる/小林くんはなんといってもA地区NO・1の投手だもんね」【290】
里中:「A地区NO・1の投手ならなぜきみを敬遠したんですか!!」
山田:「きみ だけど敬遠は作戦のうちじゃないか」
里中:「でもぼくは勝負してほしかった(バンと卓袱台を叩く)ぼくを補欠にしても出場した以上は!!」


 小林が山田を「敬遠した」と云うのは、7回裏、最後の攻撃(文庫版⑥216〜264頁)にて、山田に2死1・2塁で回るのだが、小林は1回裏に3ラン(文庫版⑥3〜17頁)、3回裏には9月28日付(16)にて検討したように岩鬼の治療のために24球粘ってファウルフライ(文庫版⑥104〜138頁)、5回裏には4回表の腹部の負傷で十分力が発揮出来ない中にあって、エンタイトルツーベースを打たれていた(文庫版⑥210〜214頁)。すなわちまともに勝負した場合、全て長打を打たれているので、そのためサヨナラのピンチに小林は敬遠策を選ぶのである(文庫版⑥240〜254頁)。
 それはともかく、11月14日付(48)の最後に、里中が鷹丘中戦のベンチにいたかのように書いてしまったが、実は試合中にはどこにも描かれていなかったので、応援に駆り出されてスタンドで、余り目立たずに見ていたらしい。ラジオで聞いていたのではなさそうである。
 これが高2の選抜決勝土佐丸高校戦での回想では、この試合のことには特に触れていない。監督に逆らって既に退部させられたことになっていて、恐らく球場にも来ていなかったのであろう。
 しかし当初の設定では退部などしておらず、いくら「小林くん」が素晴らしくてリリーフも必要としないとしても、アクシデントに備えて控えくらいは「補欠」としてベンチに置くはずだから、里中はその「ベンチに」も「入れ」ないレベルの「補欠」――と云うか、補欠ですらなかった訳で、それなのにプライドだけは高くて、「ぼくを補欠にしても出場した以上は!!」と激昂するのである。
 私はこういう辻褄の合わないところが気になるのである。架空の世界の人物とは云え、一応人格を与えられて立ち現れている以上は、設定は変更しないで置くべきだと思うし、ある時期からぱったり姿を見せなくなってそのまま何の説明もなく初めからいなかったかのような扱いになってしまうのも、同様に気になって仕方がないのである。時間の経過や人物の関係を把握しつつ読む癖があるから余計に気になるのだろうが、私には、変える必要を感じない箇所を(恐らく作者本人が確認不十分で)変えているのを見るのは、どうにもやりきれない気分なのである。(以下続稿)