瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(58)

・東郷学園対鷹丘中の試合〜山田の負傷と決勝点(2)
 昨日の続き。
 この小林から始まった回に山田が負傷し、さらに決勝点が入ってしまうのだが、この回の開始当初は3回裏の岩鬼の負傷直後の回、すなわち4回表のはずだった。ところがこの回が終わって見ると、5回表だったことになっているらしいのである。
 先頭打者が小林との場内アナウンス(文庫版⑥142頁2コマめ)を聞いて、岩鬼は喧嘩のように興奮してビーンボールを投げ付けるのだが、1球めは避けられ、残りの3球は力が入り過ぎて当たらない*1。四球で1塁に歩いた(文庫版⑥155頁)小林に、岩鬼は今度は牽制球をぶつけようとする。もちろん野手の捕球など全く考慮せず、誰もいない2塁に投げるなど無茶苦茶で、結構狡猾なキャラクターとして描かれている小林は3塁悪送球を薄笑いを浮かべつつ避けて、直ちに本塁に突っ込もうとする(文庫版⑥164頁)が、レフトの赤一郎がバックアップしていたために本塁クロスプレイになる。がっちりブロックして赤一郎の返球を捕った山田のミットを小林はスパイクしようとするが、山田はスパイクを躱す。その結果、小林はタッチアウトになるのだが、山田はスパイクからミットを躱した際に、腹をえぐられてしまう(文庫版⑥165〜170頁)。
 ここは注記が必要なところで、不知火と徳川監督が試合直前に注意していた(文庫版⑤291〜292頁)ように、山田は「プロテクターもレガース」も「持っていない」との理由で着けていなかったのである。これは岩鬼を筆頭に、頼りにならない内野の守備を固め(文庫版⑥43〜44頁)盗塁を防ぐため(文庫版⑤314〜316頁)、少しでも動きやすいように敢えて着けなかったらしい。
 そして山田は失神してしまう(文庫版⑥171〜173頁)のだが、スタンドから乱入して来た不知火の応急処置によりなんとか続行可能になる(文庫版⑥174〜179頁)。
 岩鬼は続く打者2人を空振り三振及び見逃し三振に仕留めるが、山田から岩鬼への返球がぼてぼてになったのを見て、背番号「5」が三塁線にバント安打を決めて出塁する(文庫版⑥184〜189頁)。彼は7番打者のはずだがスコアボード(文庫版⑤298頁1コマめ、文庫版⑥144頁1コマめ)によると「5」は6番打者である。
 この背番号「5」は初球にいきなり盗塁を試み、腹部の負傷の影響で山田の送球は暴投になり、さらにセンター青二郎が後逸したためそのままホームインしてしまう(191〜193頁)。投げなければ良かったと思うのだが、自分のメンバーの非力な分、自分が十二分に役割を果たさなければならないと思い込んでいる山田に、盗塁を見逃すと云う選択肢はなかったのかも知れない。この場面のラジオ実況が「東郷学園逆転!!」と言っていることについては、10月19日付(29)に突っ込んで置いた。そこにスコアボードも示して置いたが、この回は3回裏に続く4回表のはずだったのに、スコアボードでは5回表に「1」点が追加されているのである。打順からすると4回表に無死で4番小林に回るはずがないので、5回表が正しそうなものなのだけれども。
 結局このときの打者(8番のはず)が空振り三振でスリーアウト、ラジオ実況(196頁1コマめ)も「ようやく五回表チェンジです しかし この回東郷学園は山田くんの悪投とセンターのトンネルで貴重な一点をひろったのです」と言うのである。4回表・裏はどこに行ったんだ……いや「0|0」で終わっていたのである、いつの間にか。
 6回と7回表の東郷学園の攻撃は「岩鬼」の「好投」に抑えられたことが文章で説明されるだけ(文庫版⑥215頁4コマめ)である。しかし、6回表が3人で終わったとして9番1番2番、そうすると(7回裏も小林が登板しているから)7回表にまた小林に回ったはずである。――4回もしくは5回表の様子からして、岩鬼がおとなしく仕留めたとは、とても思えないのだけれども。(以下続稿)

*1:なお、連載時カラーの150頁とモノクロの151頁は11月20日付(53)の最後に指摘したのと同様の重複で、続けて読むと5球投げていることになってしまう。