瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

上方落語「三年酒」の原話(11)

 昨日は『搜神記』の訳注書について述べようと思っていたのだが、2度にわたって記事が消失してしまった。やり直す余裕がなかったので、別の記事を挙げた。今日も平日でとてもでないが同じ作業を繰り返す余裕はない。そこで先に、1月27日付(10)訓点を省いた状態(白文)で示した和刻本を、その訓点(返り点・送り仮名)に従って書き下して見よう。
 この和刻本には句読点は打たれていない。従って、文中の句読点は私が加えたものである。また、送り仮名も、当時の読者にとって判読に問題がないような箇所には打たれていないし、打っても判読に支障のない最低限に止め、活用語尾を全て片仮名で示すようなことはしていない。漢文に訓点を加えた状態はブログでは再現しづらいので、まづ返り点の順に漢字を並び替え、送り仮名をそのまま片仮名で、送り仮名の打たれていない活用語尾等を平仮名で加えたものを作成して見た。書き下し文では「不」「可」「也」「被」「之」等、日本語の助詞・助動詞に当たる漢字は平仮名にすることになっているが、漢字のままにする。但し再読文字の場合、返り点通りに返って「いまだ熟セ未トモ」としては流石におかしいので「未だ熟セずトモ」のようにした。和刻本の送り仮名には濁点が打たれていない。
 なお、現在の漢文のテキストでは熟語に返るときのみ、熟合する字間に縦に「ー」を打って熟語であることを示しているが、和刻本には頻出していて、字間の右寄りに打つと音読み、左寄りに打つと訓読みと云う決まりになっている。訓読みの場合、送り仮名が必要になるはずであるが、訓読みすることが分かればそれで読みはほぼ決定されるので、送り仮名を省略している場合が多い。――右下に何字も片仮名を記入するより「ー」だけで済んだ方が綺麗である。

狄希ハ中山ノ人也。能く千日ノ酒ヲ造ル。之ヲ飲ハ千日醉フ。時ニ州人有り。姓ハ劉、名ハ玄石、好テ酒ヲ飲ム。往テ之ヲ求ム。希カ曰、我カ酒發來未だ定ラず。敢テ君ニ飲シメ不。石カ曰、縱トヒ未だ熟セずトモ、且く一杯ヲ與ヘ得ンヤ否や。希此ノ語ヲ聞テ免レ不シテ*1之ヲ飲シム。復た索テ曰、美ナル哉。更ニ之ヲ與フ可シ。希カ曰、且く歸レ。別日當ニ來ルべし。只此ノ一杯、眠コト千日ナル可シ也*2。石別テ怍ル色有ニ似リ。家ニ至テ醉テ死ス。家人之ヲ疑ハ不。哭シテ而*3之ヲ葬リ、三年ヲ經。希カ曰、玄石必ス酒醒ム應シ*4。宜ク往テ之ヲ問フべし。既ニ石カ家ニ往テ語テ曰、石家ニ在ヤ否や。家人皆之ヲ怪テ曰、玄石亡シ來テ服以闋ル矣*5。希驚テ曰、酒之美矣而醉眠ヲ致コト*6千日、今醒ム合シ*7矣。乃ち其ノ家人ニ命シテ塚ヲ鑿リ棺ヲ破テ之ヲ看ル。塚上ノ汗氣天ニ徹ス。遂ニ命シテ塚ヲ發ク。方ニ目ヲ開キ口ヲ張リ聲ヲ引テ而言ヲ見ル。曰、快哉、我ヲ醉シムルコト也。因テ希ニ問テ曰、爾何物ヲ作る也。我ヲ一杯大ニ醉ハ令*8。今日方ニ醒ム。日高コト幾許ソ*9。墓上ノ人皆之ヲ笑フ。石カ酒氣鼻中ニ衝入セ被テ、亦各々醉臥三月。


 原文の漢字をそのまま保存し、和刻本の送り仮名を片仮名のまま保存して示そうとしてこうなったが、読みづらい。よって次に書き下し文として整えたものを示すこととしよう。(以下続稿)

*1:「シテ」は「メ」の2画めが1画めを貫かない合字(合略仮名)、以下同じなので一々注記しない。

*2:「也」は置き字。

*3:「而」は置き字。以下同じ。

*4:再読文字であるが右下の送り仮名は「シ」なので「應に」を略した。

*5:「矣」は置き字。以下同じ。

*6:「コト」は「┓」に似た合字(合略仮名)。以下同じ。

*7:再読文字であるが右下の送り仮名は「シ」なので「合に」を略した。

*8:「令」の左下に返り点「二レ」がある。まづレ点で「我ヲして」と読み、それから一二点で「醉ハしむ」と読むのであろうか。

*9:「ソ」ではなく「シテ」の合字(合略仮名)のように見える。