瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

田中康弘『山怪』(3)

 昨日の続きで、洋泉社MOOK『怪奇秘宝 「山の怪談」編に載る「異色のベストセラー『山怪』著者・田中康弘インタビュー」について。
 008頁はインタビューの題と『山怪』の書影、009頁の右側、上にリード文、下に『山怪[弐]』の書影を示し、左側に副題らしく切り取られた台詞に続いて上下2段組のインタビュー本文。
 リード文には、

昨今の出版不況のなかで、/異色のベストセラーともいえるのが、/山にまつわる不思議な話を集めた『山怪』(山と渓谷社)である。/著者は30年以上にわたって各地の猟師を取材してきた/カメラマンである田中康弘氏である。/異色のベストセラーはなぜ誕生したのか、/そして、山という異界には何が潜んでいるのか。/知られざる『山怪』の舞台裏を語ってもらおう――

とある。
 018〜019頁「CONTENTS」にも引かれている(018頁上段)副題は、

「山のなかって海のなかと同じで見えない。/見えないんですよ、山のなかは」

である。以下、上下2段組で、010頁下段右側と015頁下段左側、016頁右下に著者の写真が、012頁下段の左下に雪原の足跡、014頁上段に広葉樹の森の写真が挿入されている。4節に分かれていて、1節めは「「山ってなにか起こりうるところ/なんだなと感じました」」、011頁下段16行めから2節め「どうしても合理的に解明できないもの」、013頁下段10行めから3節め「「私が求めているのは怪談話じゃない」」、015頁下段1行めから最後の4節め「山という異界の仲介者“マタギ”」に分かれている。
 Amazon詳細ページのレビューに、本書が怖くないことを「期待はずれでした」と批判するものが散見されるが、ここを見ても山と云う何かが起こりそうな場所で体験した、合理的な説明が出来ない不思議な話を書き留めたものであって、著者は別に怖い話の本を書こうとしていた訳ではないのである。
 しかし、受けた理由は怪談集としては「異色」だったから、と云うことになりそうなのである。4節めの終わり近く、017頁下段3〜9行め、

 本誌編集長いわく『山怪』は、「実話怪談」の新しい/ジャンルを開拓したという。
 都会とはまったく異なる山村で見聞きした、体験し/た不思議な話は、実話怪談に聞き慣れた人間に新鮮な/衝撃を与えた。
 緑濃い山々に魅入られた男にしか書けないのが『山/怪』だった。

とあって「本誌編集長」と云うのは260頁奥付に「編集人――松崎憲晃/編集――小塩隆之」とあるうちの、当ブログでも2016年2月13日付「松葉杖・セーラー服・お面・鬘(05)」に「不思議ナックルズ」編集長として言及したことのある小塩氏の方じゃないかと思うのだが、3月11日付「山岳部の思ひ出(8)」に「何故「10万部」も売れているのか、よく分からない」と私が感じたのは「実話怪談」が余り好きでなくて、食傷するほど読んでいないから、まぁ山にはありそうな話くらいに受け取って、何らの衝撃も受けなかったのである。
 同じような評価は、074〜083頁の「悪魔の遠吠え ホラー界の帝王・平山夢明、光臨!」と題する平山氏の談話記事にも見えている。074頁はタイトルとリード文、それから平山氏の写真で、075頁から3段組の本文、075頁上段1行め「聞き手も読者も/「インフレ」を起こす」076頁中段11行め「怪談の極意――」077頁中段11行め「"残酷”や“無残”なものではなく、/"酔える”もの」078頁下段12行め「科学の法則に/縛られた実話怪談」079頁下段1行め「怪談界、最大の霊障――」080頁9行め「恐怖! 「呪いの人形」」の6つの節に分かれる。『山怪』について述べているのは4節めで、まづ最初(078頁下段14〜21行め)に、

 今さ、『山怪』(山と渓谷社)が流行っ/ているけど、インフレを起こしていた/実話怪談のアンチとして出てきたんじ/ゃないかと、俺は思っているんだ。
 実話怪談って、ほとんど都市が舞台/だろ? そこには、科学の法則に縛ら/れている側面が、確実にあるじゃない。/だから飽きたんだろうね、読者は。


 そして、科学の属性から解放されている「山の中」そして「沖縄の怪談」を、1節めに持ち出した「インフレ」状態に陥っている実話怪談のアンチとして評価し、079頁中段19〜23行め、

 そうしたインフレが背景にあるから、/『山怪』が売れたんじゃないかな。実際、/面白いよね、『山怪』。派手さはないん/だけど、そういうことを信じる“心の/神聖”が面白いんだよ。

と纏めている。(以下続稿)