瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

織田作之助『夫婦善哉』の文庫本(8)

 改造社の第一回「文藝推薦」作品となった「夫婦善哉」の続篇、未発表の「續夫婦善哉」の原稿が発見され、平成19年(2007)10月に雄松堂出版から、2014年7月16日付「織田作之助「續夫婦善哉」(2)」に取り上げた夫婦善哉 完全版として刊行されてから、文庫としてはまづ、平成25年(2013)7月に2014年5月20日付「織田作之助「續夫婦善哉」(1)」に取り上げた岩波文庫31-185-2『夫婦善哉 正続 他十二篇が出、そして2017年7月22日付(3)に述べたように平成25年(2013)1月の新潮文庫6557『夫婦善哉』四十八刷改版には収録しなかった新潮文庫も、平成28年(2016)9月には新潮文庫10589『夫婦善哉 決定版として「續夫婦善哉」を収録した。
 しかるにその後、平成28年(2016)10月に刊行された文庫で「續夫婦善哉」を無視する見識を示したものがある。――「續夫婦善哉」が未発表に終わった理由は、関係者が何の証言も残していない以上、分からない。原稿には何らの書込みもなく、その経緯は想像するしかない。確かなことは原稿が改造社社長の遺品中に存していたことで、脱稿後、出版社に送られたものの、掲載されずにそのままになった、ここまでは想像としても誤りないところであろう。――「續夫婦善哉」の執筆時期が昭和16年(1941)6月10日から7月4日であることは、生誕100年を記念して大阪歴史博物館で平成25年(2013)9月25日から10月18日まで開催された特別展「織田作之助大大阪」のため、遺族から借り出された資料の中にあった昭和16年の日記から判明したことが、同年9月14日の新聞各紙*1に出た。してみると、昭和22年(1947)1月10日に織田作之助が病歿するまで、いや、昭和19年(1944)7月に情報局により改造社が自主的廃業を指示されるまでに、いやもっと早い時期に、返却を求めても良さそうなものだと思うのだけれども。とにかく作者が書きっぱなしにした「續夫婦善哉」を歿後に作者の与り知らぬところで抱き合わせて出版するに際し『完全版』とか『決定版』とか勝手に名乗らせるのは、如何なものかと思ってしまうのだが、……いや、これも自信作なら掲載されないことがはっきりした時点で別に回すために返却を求めただろうと云う、私の想像に基づく僻見である。
・角川文庫20005『天衣無縫』(1)

天衣無縫 (角川文庫)

天衣無縫 (角川文庫)

平成28年10月6日初版発行(292頁)定価640円
平成28年10月30日再版発行・定価640円
・平成30年8月25日7版発行・定価640円*2
 「発行 株式会社ADOKAWA」である。
 初版と再版を比較して見た。
 カバーは一致。
 異同は奥付の、2本の横線(7.8cm)の間に挟まれた発行日が初版は「平成28年10月6日 初版発行」の1行だったのが、再版は「平成28年10月6日 初版発行/平成28年10月30日 再版発行」の2行になっていることで、横線2本の間隔も初版(0.5cm)より再版(0.8cm)は広くなっている。以下の角川源義「角川文庫発刊に際して」に目録「角川文庫ベストセラー」1頁5点(5頁)そして懸賞小説募集(3頁)は一致*3
 カバー表紙が「文豪ストレイドッグス×角川文庫 コラボカバー」であるのは御愛嬌として、巻頭に「夫婦善哉」を収録して「續夫婦善哉」は収録していない。
 1頁(頁付なし)扉、3頁(頁付なし)「目 次」、5〜51頁8行め「夫婦善哉*4」、52〜71頁2行め「俗 臭」、72〜91頁4行め「天衣無縫」、92〜128頁9行め「放 浪」、129〜148頁7行め「女の橋」、149〜171頁2行め「船場の娘」、172〜195頁12行め「大阪の女」、196〜250頁9行め「世 相」、251〜292頁1行め「アド・バルーン」の9作品を収録、解説の類はない。……解説がないから見識を示して「續夫婦善哉」を入れなかったのかどうか、実は分からないのだけれども。
 私は「續夫婦善哉」が発表されなかったのは、編集者が一読、致命的な欠陥を発見したからだと思う。一読して分かるレベルの欠陥で、恐らく作者も編集者からその欠陥を指摘されて、原稿の返却も求めなかったのではないか、と思うのである。もし改造社の編集者の意見に承服出来なかったとしたら余所に回すために原稿を返却してもらえば良い。改造社の「文藝*5」に掲載されるところが、発禁に遭ってしまった「六白金星」は、遺族が原稿を保存していた。すなわち作者に返却されたのである。そして戦後改作されて発表された。ところが「續夫婦善哉」は改造社に原稿がそのまま残っていた。――所詮は、その程度の作品だったと思うのである。(以下続稿)

*1:大阪本社版。従って私はネットで読んだ。もちろんこの特別展を見に行ったりはしていない。

*2:2019年1月25日追加。

*3:2019年1月25日追記】 7版を初版と比較して見た。カバーは一致。奥付の異同は発行日の横線の間隔が再版と同じ幅になって「平成28年 10月6日 初版発行/平成30年 8月25日 7版発行」となっていること。「角川文庫ベストセラー」は1頁め3点めに芥川龍之介蜘蛛の糸地獄変』が追加されたことで、以下2点がズレて5点めにあった川端康成伊豆の踊子』がなくなっている。2頁め4点め、坂口安吾の『不連続殺人事件』が『肝臓先生』に差し替えられている。3頁め以降は大きく変わっている。初版は1点め太宰治の『人間失格』7版は2点めで1点め『斜陽』3点め『津軽』が追加。2点め寺山修司『書を棄てよ、町へ/出よう』と5点め中勘助銀の匙』がなくなっている。3点め『吾輩は猫である』4点め『こころ』は4頁め1・2点めに移動。谷崎潤一郎の4点め『痴人の愛』5点め『細雪 (上)(中)(下)』は追加。4頁め1点め中島敦『李陵・山月記・弟/子・名人伝』は3点めに、2点め『中原中也詩集/山羊の歌』は5点めに、3点め宮沢賢治銀河鉄道の夜』は5頁め4点めに移動。4点め中村稔 編『新編 宮沢賢治詩集』と5点め三島由紀夫『不道徳教育講座』はなくなっている。4点め佐々木幹郎 編『汚れちまった悲しみに……/中原中也詩集』が追加されている。5頁め1点め三島由紀夫『夏子の冒険』はなくなっている。2点め森鴎外舞姫うたかたの記』は5点めに、夢野久作の3点め『ドギグラ・マグラ (上)(下)』と4点め『少女地獄』は6頁め1・2点めに、5点め與謝野晶子 訳『全訳 源氏物語 新装版(全五巻)』は6頁め4点めに移動。1〜3点め昆野和七 校訂『新版 福翁自伝』、佐藤きむ 訳『福翁百話/現代語訳』そして宮沢賢治セロ弾きのゴーシュ』は追加。6頁め3点め今野寿美 訳注『みだれ髪』5点め檀一雄『太宰と安吾』も追加。初版の6頁めは広告「横溝正史ミステリ大賞作品募集中!!」であったが、これは7頁めに広告のある「日本ホラー小説大賞」とまとめられたようだ。7版は7頁めの広告「横溝正史/ミステリ&ホラー大賞」は、この2つを合わせて大賞の賞金は増やしたものの全体としては規模縮小したような按配になっている。最後、8頁めの広告「角川文庫/キャラクター小説/大賞」は一致、7版の印刷が濃く太い。

*4:ルビ「めおとぜんざい」。

*5:9月17日追記】投稿時にうっかり「改造」と書いてしまったのを訂正した。この「六白金星」の原稿については別に記事にするつもりである。