瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

田中康弘『山怪』(5)

 本書が受けた理由は、3月14日付(3)に引いた、洋泉社MOOK『怪奇秘宝 「山の怪談」編』に見える小塩隆之平山夢明の指摘に拠れば、「インフレ」している都会の「実話怪談」からフィールドを「山の中」に移し、都市住民が無意識のうちに支配されている「科学の法則」から離れたところで展開される怪異が、実話怪談読者たちに「新鮮な衝撃」を与えたことにある、ようだ。
 版元は山と渓谷社で、ぶんか社とか竹書房とかメディアファクトリーとか、他にもあるのかも知れないが、従来の実話怪談の版元とは違っている。しかしこれもここまで受けると思っていなかったにせよ、狙って出したので、Amazon詳細ページの「商品の説明/メディア掲載レビューほか」に載る、「週刊文春」2017年3月23日号掲載、前田久「「ヤマケイの“黒本"」を知っていますか? 怪談ブームに乗って9万1000部」に、

「山の怪談は登山者には定番の話題で、山の怪異本の系譜も、脈々とあります。けれどもこの20年あまり、そういった本は弊社から刊行されていませんでした」(担当編集者の勝峰富雄さん)
 だが、ヒットの気配は刊行前から感じられていた。
「本書の約1年前に、山好きのあいだで知る人ぞ知る本だった『黒部の山賊 アルプスの怪』を定本化して復刊したんです。その中の怪異譚を掲載した部分の反響が大きいのに気付いていたので、『山怪』の刊行時には、2冊を関連本として打ち出しました」(勝峰さん)

との担当編集者の発言が引かれている。
 以後「埋もれていた山の怪異譚の名著を続々と復刊して、新たな書き手や編者による新著も刊行。「ヤマケイの黒い本」としてシリーズ的な人気を博すまでに至った」とのことで、本当に山の怪異談の本を、図書館でもよく目にするようになった。
 こうなると山の怪異談が平山氏の云うような「インフレ」を起こしているんじゃないか、と云う気がしてくるが、しかし「昨今の出版不況のなかで、異色のベストセラー」を達成し、続刊した類書も当たって「シリーズ的な人気を博」している以上、他の版元だって見逃すはずがないのである。……そしてダブついて失速する、ことになるはずである、たぶん。
 この辺りの展望については、次の本の「編者解説」を見て置こう。
東雅夫 編『山怪実話大全 岳人奇談傑作選二〇一七年十一月二十五日初版第一刷発行・定価1200円・山と溪谷社・235頁・四六判並製本

山怪実話大全 岳人奇談傑作選

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 同じ版元から「山怪」の語を用いて、まさに続刊された1冊である。――しかし、26篇収録では「大全」を称するのはどう考えても適当ではない。「大全」と云えばもっと分厚い1冊本もしくはシリーズか、1冊で厚くなくても網羅的に(個々の記述は短くても数は多く)そのジャンルについて述べてないといけないと思う。
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 もっとたくさん出ているが差当り4つ挙げて見た。いづれも見ていないが、とにかく1冊で網羅してあると云うので、この『山怪実話大全』は副題にあるように「傑作選」風情なのだから苟も「大全」を名乗ってはいけない、と思うのだ。
 しかしながら、流石に内容は吟味されていて、飽きずに面白く興味深く読むことが出来た。(以下続稿)