瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

松本清張『黒い福音』(4)

 それでは、2月2日付(1)に見た昭和50年(1975)刊の偕成社版『現代の民話・おばけシリーズ 5』を【B】、3月19日付(3)に見た昭和56年(1981)刊のポプラ社版『日本むかしばなし[23]』を【C】として、比較して見よう。
【1】自分を呼ぶ声・窓の外に人
【2】もうひとりのスチュワーデス
 起こった怪異現象は2つで、その内容は共通している。【2】がオチになっているのも共通。
 怪異現象が起こる以前の前提部分が、若干異なる。
【0】体験者の乗務、被害者との関係と死因
 構成はこの3つに分けられよう。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 まづ【0】から比較して見る。【B】はやや長いので【C】から見て置こう。108頁2行め〜109頁1行め、

 日本の空にジェット機がとぶようになった、あれはたしか昭和三十五年の/夏だった。早く国際線にのりたい、ジェット機にのりたい、そのときはふり/そでを着たいといつもいいつづけてきたスチュワーデスの良子さんは、よう/やくねがいがかなって、東京―香港間をとぶことになった。それもふりそ/でを着ることがゆるされたのである。*1
 ほう! というように乗客の、ことに外国人の視線が良子さんにあつま/る。なん人かのスチュワーデスが乗務しているが、ふりそでを着てサービス/するのはただひとりだった。ふつうはチーフが着るのだけれど、ときとして/はそのつぎ、またそのつぎのスチュワーデスが着ることもあった。それだけ/に良子さんははれがましく、上気したほおににこやかなほほえみをうかべ、*2【108】ようやく、アナウンスや夕食のサービスをおえた。*3


 108頁1行めは4字下げ3行取りで「ふりそで」の題。1頁13行で1行は34字。被害者の死因や、体験者との関係は【1】と【2】の間に語られている。
 【B】はまづ時期が異なる。
 書き出しの101頁4〜6行め、

 昭和三十四年の夏のことです。
 スチュワーデスのみさ子は、香港行きのジェット機に乗務するため、早めに羽田空港に/来ました*4


 そして事務室で「同期生のやす子とふみえ*5」に会い、次のような会話を交わす。102頁6〜14行め、

「きょうもあついわねえ、やす子さんは、もうあけばん(しごとをおえ/てかえること*6)?」
「ええ。いま、ホノルルからかえったばかり。みさ子さんは香港ですって?」
「ええ。とも子さんのかわりで……。」
「……あれから、もう四か月になるのね――。とも子さん、さぞ、かなしかったでしょう/ね。」
 やす子が、ひくい声でしんみりいうと、
「そうよ、そりゃあ、くやしいわ。とも子さん、いつもいってたじゃあないの。はやくふ/りそでをきて、ジェット機にのりたいって……それで、犯人は、つかまったの?」
とふみえが聞きました。*7


 被害者の死体は昭和34年(1959)3月10日朝、発見されているから「四か月」後は7月である。――1年のズレはあるが、季節が夏であることは【B】【C】共通している。(以下続稿)

*1:ルビ「にほん・そら・き・しようわ・ねん/なつ・はや・こくさいせん・き/き・よしこ/とうきよう。ほんこんかん/き」。

*2:ルビ「じようきやく・がいこくじん・し せん・よし こ/にん・じようむ・き/き/き/よしこ・じようき」。

*3:ルビ「ゆうしよく」。

*4:ルビ「しようわ・ねん・なつ/こ・ホンコンい・き・じようむ・はや・はねだ くうこう/き」。

*5:ルビ「どうき せい・こ」。

*6:括弧内は割注。

*7:ルビ「こ/こ・ホンコン/こ/げつ・こ//こ・こえ/こ・き・はんにん/き」。