瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

田中康弘『山怪』(9)

・『山怪』の関連本(4)
 昨日の続きで、河出書房新社から刊行されたアンソロジー2冊の内容を見て置こう。
 『山の怪談』189〜190頁「●プロフィール/初出一覧」として、まづ著者の氏名(読み)生歿年、職業を1行めに、2行めに題(『書名』版元、発行年月)を示す。
 『山の怪異譚』187〜188頁「「●プロフィール/出典一覧」も同様であるが、「初出」ではなく「出典」としている。東氏の示す初出と底本と違って、必ずしも初出、或いは収録に当たって依拠した本を挙げた訳ではないようだ。年月も執筆・発表時期の見当を付けるために入れて欲しいのであって、著者歿後の改版年月を挙げてもらってもあまり訳に立たない。やはり本当に初めて発表された時期と出版物、そして本書編集に当たって使用した本とを挙げて欲しいのである。
 なお、それぞれの末尾に、『山の怪談』190頁下段4〜5行め、

 *高須茂氏のご遺族、加藤博二氏及びそのご家族にお心当た/  りのある方は、編集部までご一報いただけると幸いです。

とあり、『山の怪異譚』188頁下段12〜15行めには、

 *片山英一氏、畠中善哉氏、深沢正二氏、高須茂氏の連絡先/  がわかりませんでした。ご本人及びそのご家族のご連絡先/  にお心当たりのある方は、編集部までご一報いただけると/  幸いです。

とある。昨日取り上げた東雅夫 編『山怪実話大全』には、見開きの「底本一覧」に続いて、奥付の前に編者の略歴が入った1頁があり、その左下に小さく、

著作権継承者と連絡がつかなかった方が数名おられ/ます。お心当たりの方は小社までご一報ください。

とある。氏名を示さないと提供のしようがないと思うのだけれども。
 序でに編集について少し触れて置く。河出書房新社版は鈴木牧之『北越雪譜』の文語文を現代仮名遣いにしている。一方、東雅夫 編『文豪山怪奇譚』では巻末「底本一覧」に*で3つ注記を付すが、その1つめに、

*本書は、右記の各書を底本とし、新漢字、現代仮名づかいに揃えました。ただし、詩歌作品の「河原坊」と、文語体/ で執筆された「百鬼夜行」の二篇は、例外として歴史的仮名づかいのままにしました。

とある。歴史的仮名遣いには義務教育の中学でも触れ、ほぼ全入となっている高校でしっかり習うはずだから、文語文で現代仮名遣いなどと云う奇妙な表記にする必要がないのである。もちろん古文の知識が生徒の頭に「全入」していないのが問題なのだけれども。――それはともかくとして。
 さて、やはり著者名の50音順に並べ替え、判明する限りで生歿年月日を添え、2行めの( )内を【出典】としてそのまま抜いて置いた。なお、西暦年は全て全角になっているが半角に改めた。さらに前回取り上げた東氏のアンソロジー2冊に共通する著者・作品・書物を太字にして示した。
・青柳健(1930.6.9生)
  「幻の山小屋(一)
    『山の怪異譚』7〜18頁5行め
    【出典】『郷愁の山』朋文堂、1965・8
  「山小屋の秋」
    『山の怪談』165〜168頁10行め
    【出典】『青春の穂高』二見書房、1971・3
芥川龍之介(1892.3.1〜1927.7.24)
  「高原」
    『山の怪異譚』123〜124頁3行め
    【出典】「日光小品」より。『羅生門・鼻・芋粥』角川文庫、1989・4
畦地梅太郎(1902.12.28〜1999.4.12)
  「土小屋の夜」
    『山の怪異譚』59〜61頁6行め
    【出典】『山の眼玉』1957・12/ヤマケイ文庫*1、2013・10
阿刀田高(1935.1.13生)
  「山へ登る少年」
    『山の怪異譚』125〜129頁9行め
    【出典】『恐怖コレクション』新潮社、1982・6/新潮文庫、1985・4
・石井鶴三(1887.6.5〜1973.3.17)
  「山の幻影」
    『山の怪異譚』130〜133頁14行め
    【出典】『石井鶴三文集・1』形象社、1978・9
石川純一郎(1935生)
  「会津檜枝岐怪異譚
    『山の怪異譚』25〜32頁13行め
    【出典】藤木九三・川崎隆章編『山の神秘 登山全集・随想篇』河出書房*2、1957・2
・岩科小一郎(1907〜1998)
  「天狗の正体」
    『山の怪異譚』167〜179頁3行め
    【出典】藤木九三・川崎隆章編『山の神秘 登山全集・随想篇』河出書房*3、1957・2
上田哲農(1911.8.21〜1970.11.30)
  「岳妖――本当にあった話である
    『山の怪談』141〜154頁14行め
    【出典】『日翳の山 ひなたの山』朋文堂、1958/中公文庫、1979・2
碓井徳蔵(1924〜2004)
  「谷川岳一ノ倉沢の怪」
    『山の怪異譚』54〜58頁17行め
    【出典】藤木九三・川崎隆章編『山の神秘 登山全集・随想篇』河出書房*4、1957・2
岡本綺堂(1872.十.十五〜1939.3.1)
  「木曾の旅人」
    『山の怪異譚』101〜119頁17行め
    【出典】『文藝倶楽部』1897/『白髪鬼』光文社時代小説文庫*5、1989・7
  「兄妹の魂」
    『山の怪談』54〜70頁8行め
    【出典】『青蛙堂鬼談春陽堂、1926/『影を踏まれた女』光文社文庫、1988・10
片山英一
  「怪談「八ガ岳」
    『山の怪異譚』19〜24頁8行め
    【出典】藤木九三・川崎隆章編『山の神秘 登山全集・随想篇』河出書房*6、1957・2
・加藤博二
  「山女」
    『山の怪談』102〜113頁9行め
    【出典】『深山の棲息者たち』日本公論社、1941・1
加門七海(1962.1.20生)
  「霊山の話」
    『山の怪異譚』134〜144頁4行め
    【出典】『怪のはなし』集英社、2008・12/集英社文庫、2011・12
・工藤美代子(1950.3.27生)
  「行ってはいけない土地」
    『山の怪談』126〜135頁2行め
    【出典】『日々是怪談』中央公論社、1997・10/『なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか』中公文庫、2012・7
・小池直太郎(1894〜1943)
  「貉の怪異」
    『山の怪談』30〜50頁17行め
    【出典】『夜啼石の話――信濃民俗誌』筑摩書房、1956・9
小泉八雲(1850.6.27〜1904.9.26)
  「常識」*7
    『山の怪異譚』97〜100頁10行め
    【出典】『小泉八雲全集・7』第一書房、1926・7
  「幽霊滝の伝説」
    『山の怪談』51〜53頁16行め
    【出典】田部隆次・訳『小泉八雲全集・7』「骨董」第一書房、1926・7
幸田露伴(1867.七.二十三〜1947.7.30)
  「観画談」
    『山の怪異譚』73〜96頁8行め
    【出典】『改造』1925・7/『ちくま日本文学全集幸田露伴』1992・3
佐々木喜善(1886.10.5〜1933.9.29)
  「不思議な縁女の話」
    『山の怪異譚』149〜156頁4行め
    【出典】『佐々木喜善全集・1』遠野市立博物館、1986・6
沢野ひとし(1944.12.18生)
  「縦走路の女」
    『山の怪談』179〜188頁15行め
    【出典】『休息の山』山と溪谷社、1994・9/角川文庫、1997・9
志賀直哉(1883.2.20〜1971.10.21)
  「焚火」
    『山の怪談』71〜84頁16行め
    【出典】『改造』1920・4/『小僧の神様岩波文庫、1928・8
・ハンス・シュトルテ(1913〜2007.8.31)
  「丹沢の七不思議」
    『山の怪談』114〜125頁11行め
    【出典】『丹沢夜話』有隣堂、1983・10
・鈴木牧之(1770.正.二十七〜1842.五.十五)
  「雪中の幽霊」
    『山の怪異譚』157〜160頁8行め
    【出典】『北越雪譜』岩波文庫、1982・6
・高須茂(1908.10.28〜1979.1.27)
  「含満考――バケモノの話
    『山の怪談』15〜18頁11行め
    【出典】『日本山河誌』角川選書、1976・9
  「ヒダル神のこと――山中の怪異について
    『山の怪異譚』164〜166頁4行め
    【出典】『日本山河誌』角川選書、1976・9
・高田直樹(1936.9.17生)
  「神さんや物の怪や芝ヤンの霊がすんでいる山の中」
    『山の怪談』169〜178頁10行め
    【出典】『続々なんで山登るねん』山と溪谷社、1983・7
・高橋文太郎(1903.1.9〜1948.12.22)
  「忌み山」
    『山の怪異譚』161〜163頁18行め
    【出典】『山と人と生活』金星堂、1943・3
  「山の怪異」
    『山の怪談』10〜14頁9行め
    【出典】『山と人と生活』金星堂、1943・3
田中貢太郎(1880.3.2〜1941.2.1)
  「三原山紀行」
    『山の怪異譚』120〜122頁17行め
    【出典】『新怪談集 実話篇・物語篇』改造社、1938・6/『日本怪談実話〈全〉』河出書房新社、2017・11
辻まこと(1913.9.20〜1975.12.19)
  「ある短い冬の旅」
    『山の怪異譚』62〜65頁5行め
    【出典】『山と森は私に語った』白日社、1980・6
豊島与志雄(1890.11.27〜1955.6.18)
  「天狗笑い」
    『山の怪談』96〜101頁12行め
    【出典】『赤い鳥』1926・7/『天狗笑ひ』同光社、1946・12
・西岡一雄(1886〜1964.2.6)
  「天狗は山人也」
    『山の怪談』19〜29頁5行め*8
    【出典】『泉を聴く』中公文庫、1979・10
西丸震哉(1923.9.5〜2012.5.24)
  「岩塔ケ原」
    『山の怪談』155〜159頁6行め
    【出典】『山とお化けと自然界』中公文庫、1990・11
  「遭難者のいる谷間」
    『山の怪異譚』 37〜46頁4行め
    【出典】『山歩き山暮し』中央公論社、1974・7/中公文庫、1980・9
新田次郎(1912.6.6〜1980.2.15)
  「ブロッケンの妖異」
    『山の怪異譚』66〜72頁9行め*9
    【出典】『山旅ノート』山と溪谷社、1970・10
野尻抱影(1885.11.15〜1977.10.30)
  「むじな話」
    『山の怪異譚』180〜186頁8行め
    【出典】『星まんだら』徳間文庫、1991・7
畠中善哉(1900生)
  「鳥海湖畔の怪
    『山の怪異譚』33〜36頁18行め
    【出典】藤木九三・川崎隆章編『山の神秘 登山全集・随想篇』河出書房*10、1957・2
平山蘆江(1882.11.15〜1953.4.18)
  「天井の怪」
    『山の怪談』85〜95頁4行め
    【出典】『蘆江怪談集』岡倉書房、1934・7/ウェッジ文庫、2009・10
・深沢正二
  「横尾谷岩小屋の怪」
    『山の怪異譚』47〜53頁18行め
    【出典】藤木九三・川崎隆章編『山の神秘 登山全集・随想篇』河出書房*11、1957・2
深田久弥(1903.3.11〜1971.3.21)
  「山の怪談
    『山の怪談』136〜140頁18行め
    【出典】『週刊朝日』1939・7・9/『山の幸』青木書店、1940・12
・古川純一(1923生)
  「死者――霊魂の歩み
    『山の怪談』160〜164頁16行め
    【出典】『いのちの山』二見書房、1967・8
柳田国男(1875.7.31〜1962.8.8)
  「一眼一足の怪」
    『山の怪異譚』145〜148頁3行め
    【出典】『妖怪談義』修道社*12、1956・12
  「入らず山」
    『山の怪談』7〜9頁10行め
    【出典】『妖怪談義』修道社、1956・12
 どのような用意の下に編集したのか、その説明は全くない*13。この、初出を示しているのか、それとも底本を示したのか不分明な出典の示し方や、書名の誤りなどを見ても、責任が明確でないことと相俟って、少々不安にさせられるものがある。(以下続稿)

*1:初版の版元名はもとから入っていない。

*2:片山英一の次に載り「同前」となっているが、並べ替えたので一々同じデータを記載することとした。

*3:「『山の神秘』同前」となっているが、並べ替えたので一々同じデータを記載することとした。

*4:深沢正二に続いて載り「同前」となっているが、並べ替えたので一々同じデータを記載することとした。

*5:明治30年(1897)の「文藝倶楽部」が初出と云うのは光文社時代小説文庫『白髪鬼』の「初出誌一覧」の誤りを踏襲したもので、明治30年代の「文藝倶楽部」に載った「木曾の怪物」は、平成14年(2002)に東雅夫が明らかにしたように「木曾の旅人」ではなく、その導入部に利用されているのみである。今後も触れるつもりであるので差当り2013年6月28日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(17)」を挙げて置く。

*6:昨日紹介した『山怪実話大全』にある通り『登山全書』が正しい。――河出書房新社の前身の河出書房の出版物なのだけれども。

*7:97頁2行め、著者名の下に(田部隆次・訳)と添える。

*8:本文末(29頁5行め)に「(昭和六年七月)」とある。

*9:文末(72頁9行め)に小さく「(昭和二十八年) 」とあり。

*10:片山英一・石川純一郎に続いて載り「同前」となっているが、並べ替えたので一々同じデータを記載することとした。

*11:「『山の神秘』同前」となっているが、並べ替えたので一々同じデータを記載することとした。

*12:2011年5月29日付「柳田國男『妖怪談義』(5)」に示したように、修道社(現代選書)版には題の下に初出が割書で示されていた。河出書房新社版の2冊が初出を示さないところからすると、底本には講談社学術文庫版を用いたのではないか。

*13:この点については、近年、河出文庫から続刊されている怪異小説のアンソロジーの編集振りと絡めて、検討して見ても良いかも知れない。