瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

Agota Kristof “Le Grand Cahier” (2)

アゴタ・クリストフ/堀茂樹 訳『悪童日記』(2)
 昨日の続きで、4章め「労働」の、文庫版初刷に於ける疑問箇所が「若干の手直しを加え」る前はどうなっていたのかと思って、単行本を比較して見た。
 まづ、発表の順序は逆になるが私の見た順序に従って、文庫版から見て置こう。「労働」の章の冒頭部、15頁2〜12行め、

 ぼくらはどうしても、おばあちゃんの手助けとなるいくつかの仕事をしなければな/らない。そうしないと、おばあちゃんは食べ物をまったくくれないし、一晩じゅう、/家の中に入れてくれないのだ。
 初めのうち、ぼくらはおばあちゃんに従うことを拒否した。庭で眠り、果物や生の/野菜を食べたのだ。
 早朝、まだ陽も昇らぬ時刻、家から出てくるおばあちゃんの姿が、庭にいるぼくら/の目に入る。おばあちゃんは、ぼくらに声をかけない。家畜に餌をやるに行く。山羊/の乳をしぼる。それから山羊の群れを川岸へ連れて行き、山羊たちを繋いでいる綱を/木立にくくりつける。それから畑に水を撒*1き、野菜や果実を摘んで、手押し車に積み/込む。卵をいっぱい入れたカゴも、兎一羽と、足を縛った若鶏かアヒル一羽を入れた/小さな檻も、手押し車に積む。【15】


 文庫版十三刷では「家畜に餌をやるに行く」を、前回見たように「家畜に餌をやりに行く」に訂正している。
 単行本(13版)12〜14頁「労働」の当該箇所を抜いて見よう。12頁2〜10行め、

 ぼくらは、おばあちゃんの手助けとなるいくつかの仕事をさせられている。仕事をしないと、食べ/物を少しも貰えないし、一晩中、家の中に入れてもらえないのだ。
 初めはぼくらも、おばあちゃんに従うことを拒否した。庭で眠り、生の果実や野菜で飢えを凌*2いだ/のだ。
 早朝、まだ陽も昇らぬ時刻、家から出てくるおばあちゃんの姿が、庭にいるぼくらの目に入る。お/ばあちゃんは、ぼくらに声をかけない。彼女は、家畜に餌をやる。山羊の乳をしぼる。それから山羊/の群れを川岸へ連れて行き、山羊たちを繋いでいる綱を木立に括*3りつける。その上で菜園に水を撒き、/野菜や果実を摘んで、荷車に積み込む。卵をいっぱい入れた籠も、一羽の兎と足を縛られた若鶏かア/ヒルを入れた小さな檻も、荷車に積む。


 ここで「家畜に餌をやる」に加筆した際に「家畜に餌をやるに行く」と打ち込んでしまったらしいことが察せられるが、異同はそれだけではない。ほぼそのままの箇所もあるが、全体に手が加えられている。
 これが「ほんの手直し程度にすぎない」と云えるであろうか。――「若干の手直し」と云うからには、文意が違って来るほどではないが、改めた方が良さそうな「若干」箇所に「手直しを加えた」のだろうと思う。しかし、これ以外の箇所まで細かく見ていないが、この調子ではどうも、全面的に手を入れているように思われるのである。(以下続稿)

*1:ルビ「ま」。

*2:ルビ「しの」。

*3:ルビ「くく」。