瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

Pierre Loti “Pêcheur d'Islande” (1)

岩波文庫32-546-1『氷島の漁夫』(1)
 本書には3月7日付「Pierre Loti “Japoneries d'automne”(4)」に触れたが、今回は現行の吉氷清訳について、見て置く。
・1978年10月16日 第1刷発行©(304頁)☆☆☆ ¥300
・2014年7月9日 第3刷発行 定価780円
 1頁(頁付なし)扉、2頁(頁付なし)上部に横組みで「PÊCHEUR D'ISLANDE/Pierre Loti」とある。3頁「目  次」、5頁から本文で294頁まで。295〜304頁「訳者あとがき」。その1項め(295頁2〜9行め)に、

○ この新訳は、前訳の一九六一(昭和三六)年版に全面的に手を加えたものである。前訳の成立/については、前訳巻末の解説欄で私が詳しく述べておいた通りである。あれから十数年を経た今/日、前訳の不備を正すほか更に前訳に細かな修正を加え、どうやら気のすむものにまで仕上げる/ことのできたことは、前訳の文責者として私のよろこびに堪えないところである。
 これも本訳の背後に、故吉江喬松先生(一八八〇―一九四〇)の御遺業と、前訳で多大の御指導/をたまわったこれまた今は亡き山内義雄先生(一八九四―一九七三)の二大支柱があったればこそ/のことであり、その意味でこの新訳は、この二大恩師に対するその後の報告書として、謹んでそ/の墓前に捧げられるべきものである。

とあるが「前訳巻末の解説」が再録されていないので、この「新訳」の読者にはどんな経緯があったものだか、隔靴掻痒である。
 さて、この「訳者あとがき」は、末尾、304頁9行めに3字下げでやや小さく「一九七八年九月」とあり、さらに10行めに下寄せでやや大きく「吉 氷  清  」とあるのだが、第1刷と第3刷を比較するに、297頁までは一致しているようであるが、298頁以降が異なる。恐らく第2刷で、訳者吉氷氏本人が手を入れたものと思われるのだが、その時期について特に断りがないのである。
 すなわち、297頁17行めから298頁1行めまでの、ラフカディオ・ハーンのロチ評の引用の最後、第1刷は「‥‥比すべき」とまで激賞され、‥‥」となっていたのが、第3刷は「‥‥比すべき」(『東西文学評論』)とまで激賞され、‥‥」と書名が追加されている(二重鍵括弧も半角)。
 末尾近く、304頁5〜6行めも、第1刷は「‥‥、なるべくその土地の風習に従っておくほうが味が出/るというだけのことである。‥‥」となっていたが、第3刷は「‥‥、なるべくその土地の風習に従っておくほうが望ましくもあり、味が出るというだけのことである。‥‥」と、仮に太字にした部分が追加されている。
 これらが活字では訂正箇所の区別が付かないのに対し、301頁9〜14行めは、明らかに異なる活字で組み直されている。すなわち、上記2箇所の訂正が第2刷でなされたらしいのに対し、ここは、内容からしても第3刷で新たに修正されたらしいのである。異同は9行め、第1刷は「/の説明よれば、彼らは、数代に亙る血族あるいは血縁結婚によって、‥‥」となっていたのが、第3刷では「/の説明よれば、彼らは、数代に亙る同族結婚によって、‥‥」となっている。以下、段落末までが組み直されている訳であるが、ついでに「に」を「の」と誤植しているのである。
 この他にももう1箇所、やはり第2刷での訂正と思われるところがあるが、これは長くなるので次回、検討することとする。(以下続稿)