瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(49)

・末広昌雄「山の伝説」(3)
 昨日の続きで、末広昌雄「山の伝説」の「山の宿の怪異」について、その原拠となったと見られる白銀冴太郎「深夜の客」の本文と対照させて見ます。しかし白銀冴太郎「深夜の客」の本文は改めて引用しません。既に当ブログにて、杉村顕道『信州百物語』所収「蓮華温泉の怪話」と対照させた箇所、まづは8月10日付(29)に引いた【I】巡査の来訪と男の追跡に対応する、「山の宿の怪異」の本文のみを抜いて見ることとします。15頁中段27行め〜下段20行め、

 それから十分もするかしないうちまた【15頁中段】もや表戸を激しく叩く者がある。「開けてく/れ、早く!
 主人はもう我慢が出来ないほど気味が悪く/なったので返事をしなかった子供はいっそうおびえつつさらに縋りついて来た。
 「おい開けてくれ、私だ駐在巡査のだ」/たしかに聞き覚えのある巡査の声である。主/人は表戸を開けると、巡査は外に突っ立って/い
 「早速だが、お前の所に洋服をた四十ばか/りの男が来やしなかったか
 「来ました、来ました。たしかに
 「まだいるか」「断わって出て行って貰いま/したよ。たった今ここを出て行ったばかりで
 「今、そうかね。有難う」と、巡査はすぐに/雪の山道走り去った。と思うと、白樺の林/の方にあたって激しい人声が起こった。主/人は鉄砲を持ち出してその方向に走り出した。‥‥


 仮に太字にして示したのは、「深夜の客」には存在しないか、書き換えてある部分です。「深夜の客」に足した部分が多く、削ったのは2箇所の「開けてくれ」が目立つ程度です。
 すなわち、発言順も含めて全く同じ展開で、「山の宿の怪異」は「深夜の客」のややこなれない表現を改め、書き足しているものと見て良いでしょう。「蓮華温泉の怪話」の方ではないことは、この部分だけからも明らかでしょう。
 気になる異同は「駐在巡査の松野」が「駐在巡査の」になっていることと、これは後で冒頭部と絡めて検討するつもりですが「雪の山道」となっていることです。

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 結論が出ているのにこういうことをやるのは、面倒かつ余り面白くもないものですが、こういうことが後々検討する際に役立つこともあるので、労を厭わず、オチまで続けることにします。(以下続稿)