瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(56)

・末広昌雄「山の伝説」(10)
 末広昌雄「山の伝説」の本文については、実は依拠したと思しき文献の見当が付いたのですが、改めて閲覧に行かないといけません*1。手持ちの資料は昨日で尽きました(流石に全文引く訳には行きません)ので、明日から9月6日付(47)に予告した、堤邦彦「「幽霊」の古層」の検討に戻ります。
 ところで、末広氏については、ネット上にも全くと云って良いくらい情報がなく、現在、末広氏の文章で最も手にし易いと思われる、山村民俗の会 編『山の怪奇・百物語』への寄稿にも執筆者紹介がなく、エンタプライズ版『シリーズ 山と民俗』はもちろんのこと、単独で再刊した河出書房新社版『山の怪奇 百物語』も同様です。「山の伝説」でも前回引いた「山の神の伝説」の冒頭によって、昭和30年代に既に成人していたことが分かるくらいです。
 そうすると、本を探すしかありません*2。著書があれば、奥付等に略歴が出ている可能性があります。そこで先月下旬、国立国会図書館に「あしなか」を閲覧に行くに先立って、隣接する市の図書館に所蔵する次の本を、書庫から出してもらって借りて見ました。
・末廣昌雄『鎌倉・湘南新歳時記 吾妻鏡』の世界 1992年2月14日 第1刷発行・定価2,000円・岳書房・216頁・四六判上製本
 著者名ですがカバー表紙・背表紙と扉は本字「廣」ではなく、まだれ「广」に「黄」になっています。そして鄯〜鄱頁、相沢富治(神奈川県立金沢文庫長)「序にかえて」や213〜214頁「あとがき」、奥付やその裏の「●岳書房 出版案内」では「廣」です。
 鄴頁(頁付なし)「目   次」の扉で、酛頁まで。
 1頁(頁付なし)は「第一部 鎌倉・湘南新歳時記」の扉で、3〜119頁に39章、1章3頁に写真1枚で一定しており、内容的にも専門誌ではなく地域の広報誌か何かに連載したもののように思われるのですが、「あとがき」を見るに213頁7〜8行めに、

 さらに、「湘南新風土記」として拙稿を連載中の湘南毎日新聞社・野口祐氏に/は大変お世話をおかけしています。

とあって「湘南毎日新聞」に連載されたことが分かります。
 121頁(頁付なし)は「第二部 吾妻鏡』の世界」の扉で、123〜180頁に18章、うち10章め、150〜154頁「金沢一族の滅亡」と18章め、175〜180頁「『吾妻鏡』の原本の謎」の2章のみ注が附され、後者は本文も他の章の倍くらいの量があります。連載では2回分だったのでしょうか。
 181頁(頁付なし)は「第三部 石の鎌倉」の扉で、183〜212頁に10章、これは全て1章3頁になっております。
 さて、掲載紙の「湘南毎日新聞」は現在発行されていないらしく、国立国会図書館にも神奈川県立図書館にも所蔵されておりません。こうなったら地元の図書館を当たるしかないのですが、今は有難いことにネットで検索出来ますから、湘南毎日新聞社の所在地である藤沢市の、「藤沢市図書館」HPで検索して見たところ、昭和46年(1971)の第667号から平成21年(2009)3月18日の第2203号までが、総合市民図書館に所蔵されていることが分かりました。恐らくこれで終刊となったのでしょう。平成12年(2000)までは年45回程度の刊行で、平成13年(2001)から終刊までは年30回程度の刊行になっています。さらに鎌倉市立中央図書館には、号数までは分からないのですが、昭和43年(1968)から昭和55年(1980)までと、平成11年(1999)6月から平成16年(2004)3月までが所蔵されています。――やる気と暇さえあれば昭和43年(1968)から平成21年(2009)3月まで、41年と3ヶ月分を閲覧することも可能です。
 そして、次の本も「湘南毎日新聞」連載を纏めたものとのことなので、もし機会があればメモして置こうと思いました。

鎌倉府と相模武士〈下巻〉

鎌倉府と相模武士〈下巻〉

 それはともかく『鎌倉・湘南新歳時記 吾妻鏡』の世界に戻りましょう。
 213〜214頁「あとがき」、215〜216頁「参考文献」、奥付、そして最後、その裏に「●岳書房 出版案内」があって横組みで17点、末廣氏の著書は4〜6点めに、

     『吾妻鏡』を歩く* 末廣 昌雄  定価1751円
    鎌倉・湘南新風土記  末廣 昌雄  定価1648円
    鎌倉・湘南新歳時記  末廣 昌雄  定価2060円

と見えています。「*」は下の欄外右寄せで「*全国学図書館協議会選定図書」とあって他に2冊「*」が打たれています。古い蔵書を処分していない高校図書館にはまだ所蔵されているかも知れません。
 それはともかく、奥付は横組みで、上部に

  著者略歴
1931年愛媛県生まれ。1936年より藤沢市に在住。
早稲田大学法学部卒後は地方公務員として,社会教育行政と福祉行政部門に主として/勤め,平成2年勧奨退職し,神奈川県立金沢文庫学芸課嘱託として勤務,現在に至る。/日本歴史学会,日本石仏協会,山村民俗の会,歴史研究会,神奈川県自然保護協会,日/本書票の会等に所属。
著  書 『日本文化財資料集・文献案内』(FTCC)
     『鎌倉・横浜』(共著) 山と渓谷社
     『神奈川県歴史人名事典』(分担執筆) 神奈川県
     『山の怪奇物語』(共著) エンタプライズ社
     『狩猟』(共著) エンタプライズ社
     『歴史論文集』(共著) 新人物往来社
     『山の神とオコゼ』(共著) エンタプライズ社
     『鎌倉の中世史探訪「吾妻鏡」を歩く』 岳書房 
     『鎌倉・湘南新風土記 続「吾妻鏡」を歩く』 岳書房

とあって、大体の経歴とその執筆分野が判明します。『シリーズ 山と民俗』の3冊に執筆していますが『山の怪奇・百物語』と『山の神とヲコゼ』は書名が間違っています。
 すなわち、末広氏は専門家と云うのではありませんが、若い時期から山岳雑誌に寄稿し*3、さらに歴史にも興味を拡げて、タウン紙に連載を持つなど、民俗・歴史関係の執筆に経験を積んだ書き手だったのです。
 ところで、河出書房新社版『山の怪奇 百物語』には著者紹介のようなものはないのですが、奥付の前の頁(215頁の裏)の下部に明朝体縦組みで小さく、

*本書は、山村民俗の会編(シリーズ山と民俗)の第/6巻『山の怪奇・百物語』(一九八九年五月刊)を底/本としています。執筆者のうち、末広昌雄、神山弘、/新井良輔、大塚安子、横山篤美、青木自由治、浅野明、/以上七氏の方々とご連絡先がとれませんでした。ご遺/族を含め、ご連絡先にお心当たりのある方は、編集部/までご一報いただけますと幸いです。また、文中の地/名などについては当時のママとしました。

とあって、昨年の段階で連絡先不明となっておりました(「ご連絡がとれません」は変です)。当然「あしなか」への寄稿に見えた住所には連絡を入れていると思われます。しかし、これだけ手広く活動していたのですから、どこかしら消息を知っている人もあろうかと思うのですが、どの程度探索するものなのでしょうか。(以下続稿)

*1:2019年8月9日追記】この文献の検討は2018年11月25日付(65)から始めて一通りの検証を済ませて置いた。

*2:以前重宝していた『著作権台帳』は刊行終了して以来、既刊分も図書館で余り見掛けなくなったような気がします。私が今通っている図書館が元々備えていなかっただけかも知れませんが。

*3:このことについては長くなるので別に報告するつもりです。