瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

閉じ込められた女子学生(5)

 最近「怪談実話」とか「実話怪談」とか「恐怖実話」等と称する本が多数刊行されているようです。しかしながら、私はこの手の本を殆ど手にしたことがありません。
 私は2016年1月14日付「子不語怪力亂神(1)」及び2016年1月23日付「子不語怪力亂神(2)」に述べたような理由で、体験談が苦手です。体験した本人が語ったのではなく怪談作家が、他人の体験を小説じみた筆致で綴っているものになると一層ハードルが高くなります。――本当にこんな会話をしたのか、調子に乗って書き過ぎているのではないか、と云う疑問に苛まれる(!)からです。
 だから次の本を手にしたのは、偶然でした。
川奈まり子実話怪談 出没地帯』 河出書房新社・251頁・四六判並製本

実話怪談 出没地帯

実話怪談 出没地帯

・二〇一六年六月二〇日 初版印刷・二〇一六年六月三〇日 初版発行・定価1300円
 私は図書館に行くと貸出制限冊数目一杯借りてしまう癖があって、しかし予備校以来都内だった通学・勤務先が都内でなくなってからは、わざわざ図書館のために都内に出ているので、目一杯借りるのは難しくなっています。――夕方から4つの区の区立図書館を梯子したこともあって、帰宅の人々に紛れながら、何をやっているのか、と思いつつ、制限冊数まで借りれば4区合計で80冊(他に視聴覚資料)になるのですが、そんなに背負って歩けませんので、差当って使えそうな数冊に絞って借りて、結局使わなかったりします。しかしながら、他の館を廻らなくて良いときには、昔の癖でどうしても制限冊数まで借りたくなってしまうのです。
 この本を手にしたのも、もう1冊借りられたからでした。
 川奈まり子(1967.11.9生)についての知識は何もありませんでした。ただ、3〜4頁(頁付なし)「目 次」を眺めて、28題中5題め、3頁6行め、

母校の怪談         東京・杉並区(女子美術大学付属高等学校) 27

に目が止まったのでした。
 27頁を見るに、1行めに2行取り1字下げで明朝体太字で大きく「母校の怪談」と題して、2行分空けて、2行めから、

 先日、「大学にまつわる怖い話」というオカルト系のまとめサイトで、母校の怪談/話を見つけた。
「友だちがJ子美短大いってて寮に入ってたんだけど、妙に暗い感じの建物で、ほん/とよく電気製品が壊れる。ラジオ聞いててヘンな音混ざるとかもう当たり前」「ある/日友だち呼んで自室でお茶しながらカセットテープかけてたらいきなり凄い音がして/テープが溶けてた」「寮から見える校舎の屋上で学生運動がらみの焼身自殺があって/どうこうっていう話も聞いたけど、スレ見たら都市伝説ぽい」
 都市伝説だなんてとんでもない。
 焼身自殺については、私が女子美術大学付属高校に在学中、杉並区のキャンパス内/で実際に起きた事件である。当時は週刊誌でも報じられた。
 学生運動がらみというのも誤りだ。‥‥


 12行めまで抜いて置きましたが、女子美術大学焼身自殺については、以前「不思議ナックルズ・恐怖コレクション」及び「「怖い噂」リアル・ホラー・コレクション」を幾つか眺めた際に、取り上げられているのを見た記憶があり、そこには新聞記事の複写も掲載されていたと記憶します。それから2016年3月5日付「八王子城(1)」から暫く取り上げた、「造形大の怪談」についてネット情報を検索した際に、ネット上に幾つか挙がっているのを目にしたことがありました。――日本の自殺情報総合ウェブ「日本自殺研究所」の、2013年までのそれなりに報道された自殺を網羅した「自殺データベース」を覗いて見るに、「自殺データベース (9) 昭和60年代の自殺 (1985−1989)」の「1986年1月26日」条に「女子美術大学洋画科4年■■■■が杉並区和田1-49-8同大2号館屋上にて灯油をかぶり焼身自殺」と見えていました。
 川奈氏が見た「まとめサイト」に転載されていたのは2ch(5ch)の「大学にまつわる怖い話」と云うスレッドの、2004年9月29日に書き込まれた「296」番です。
 さて、実話怪談 出没地帯』の素性ですが、本文は251頁まででその裏に装幀について担当者を挙げ、そしてその次の頁、中央下に

本作は、ニュースサイト「しらべぇ」(http://sirabee.com/)/に連載された、「川奈まり子の実話系怪談コラム」を加筆/修正・改題したものです。

とあって、「母校の怪談」は2015/02/18「【川奈まり子の実話系怪談コラム】母校の怪談【第九夜】」として掲載されています。この連載には以前は気付いていませんでした。
 さらにその裏、奥付の前の頁に、著者について、まづ大きく明朝体で「川奈まり子(かわな まりこ)」として、

東京都生まれ。女子美術大学短期大学部卒業後、出版社デザイン室勤務、フリーラ/イターを経て三一歳で女優デビューし二〇〇四年に引退。
山村正夫記念小説講座で小説を学び、一一年『義母の艷香』で小説家デビュー。以/降、官能・怪奇実話のジャンルで活躍しており著書多数。日本推理作家協会会員。

と紹介されています。生年が示されていませんがWikipediaに拠ると昭和42年(1967)11月の生れで、高校は昭和61年(1986)3月卒業、すなわち3年生の1月下旬に、同じ敷地、すなわち6号館の付属高等学校・中学校*1に隣接する2号館の屋上で焼身自殺が起きているのです。(以下続稿)

*1:現在は平成22年(2010)落成の3号館に移転。