・末広昌雄「雪の夜の伝説」(6)
末広氏が書いた「山の宿の怪異」の2つの本文のうち、「山と高原」第二三三号54〜56頁に掲載された「雪の夜の伝説」の本文について、今回は8月12日付(31)及び9月9日付(50)に見た、【J】巡査による男の捕縛と説明に当たる箇所を検討して見ましょう。
「あしなか」第弐百弐拾四輯13〜17頁に寄稿した「山の伝説――古い山日記より」との異同を太字で示し、そのうち昭和3年(1928)の「サンデー毎日」に掲載された白銀冴太郎「深夜の客」と一致する箇所を赤(の太字)にして示しました。
56頁1段め1〜15行め、
‥‥。と、向うからさっきの紳士/を縛りあげた巡査が山を下って来る姿を/見た。
「旦那、その男は、何か悪いことでもし/たのですか」
「人殺しなんだ。越中で、若い女を殺し/て逃げて来た悪い奴なんだ。あちらの警/察からの手配で、ここに逃げこんだ事が/分って追跡して来たんだ」
「人殺し」主人はぞっと身震いした。犯/人は深くうなだれて顔もあげなかった。/そして巡査に護送されて雪の山道を下っ/て行った。月は、彼等にも照り冴えてい/た。提灯の火が人魂のように雪の上を遠/ざかって行く。‥‥
この要領では明確に出来ないのですが、台詞など、8月12日付(31)に引いた「深夜の客」と一致する箇所が多く、9月10日付(51)に引いた「山の伝説」はこれに加筆したものだと察せられます。注意すべき異同としては、「深夜の客」と「雪の夜の伝説」が「提灯」としていたのを「山の伝説」が「ランプ」と改めていること(これは前回の引用箇所の、巡査の服装を「和服で」としていたのを「山の伝説」にて削除したことと関連した修訂でしょう)、「深夜の客」が「秋」のこととしていたのを、末広氏は9月12日付(53)及び11月27日付(67)等に引いた【B】にあるように年末の「根雪」のある状態に設定しているので、前回引いた【I】もそうでしたが「雪の」を付け加えていることです。(以下続稿)