瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(71)

・末広昌雄「雪の夜の伝説」(7)
 末広氏が書いた「山の宿の怪異」の2つの本文のうち、「山と高原」第二三三号54〜56頁に掲載された「雪の夜の伝説」の本文について、今回は8月12日付(31)及び9月10日付(51)に見た、【K】子供の怯えたものに当たる箇所を検討して見ましょう。要領は前回までに同じです。
 56頁1段め1〜15行め、

‥‥。家に帰った主人は、子供/に向って云った。「あの男は怖しい人殺/しをしただが、俺は不思議でならない。/人殺しと聞けば俺も恐しくなるが、お前/は何も知らないのにあいつが恐ろしいと/云った。どうして恐ろしい男だと分った/んだい」
 子供はまだ唇を紫にして震えていた/「父ちゃんは見なかったのかい」「何を」/「怖いものを」「何も見やあしなかった/よ」
「父ちゃんあの人が坐っていただろう/あの時にさ」「何かあったのかい」
「背中にだよ。あの人の背中に、血みど/ろになって髪を振り乱した若い女の人が/恐しい顔をしておんぶしていたよ」
「えっ」主人は総身に水でもぶっかけ/られたようにおびえた。【1段め】
「そしてね、あの人が出て行っただろう。/その時に、おんぶしていた若い女が、背/中から離れてあの人の後からふわふわと歩/いてついて行ったよ。そして、家の戸口迄/行った時、父ちゃん、俺の顔をみて、にた/にたと笑ったんだよ」
 主人は真っ青になって子供に抱きついたの/であ。‥‥


 ところで、11月28日付(68)に附記した、杉村顕(顕道)と「サンデー毎日」との関係ですが、全くの偶然なのですが同じ11月28日18:51の東雅夫の tweet

>前RT 「サンデー毎日」の懸賞応募といえば、若き日の杉村顕道!(『山怪実話大全』参照)(雅)

とあることに気付きました。東氏は「深夜の客」が杉村氏の「サンデー毎日」懸賞応募作品だと確信しているようです。
 ちなみに「>前RT」と云うのは東氏がその直前に retweet していた11月28日17:43の栗原裕一郎の tweet のことで、11月28日14:39の栗原裕一郎の tweet に引いた、昭和2年(1927)11月29日付「讀賣新聞」の記事「短篇小説當選取消」に見える井上修吉が、井上ひさし(1934.11.17〜2010.4.9)の父親らしいと云う内容で、井上修吉(1905〜1939.6.16)は「直木賞のすべて」の川口則弘(1972生)の子サイト「文学賞の世界」の「『サンデー毎日』大衆文芸入選作一覧」を見るに、第17回(昭和10年/1935年度・下)に小松滋の筆名で「H丸伝奇」が「入選」しているのです。杉村氏が選外佳作となった第19回のちょうど1年前です。

H丸伝奇

H丸伝奇

 「H丸伝奇」は井上ひさし死去の翌年、平成23年(2011)に単行本が刊行されており、発売元のHPにて復刊の経緯が分かります。
 昭和2年(1927)の井上修吉が同一人物かどうかは、11月28日付「讀賣新聞」を見れば見当が付くのではないでしょうか。それはともかく、白銀冴太郎と杉村顕(顕道)が同一人物かどうかは、可能性は高いと思いますが東氏が根拠とした次女の証言が「深夜の客」を指している「可能性は極めて」低いと云うべきです。
 「深夜の客」は「一頁古今事實怪談懸賞」の応募作品でしたが、私は「事実怪談」ではなく岡本綺堂「木曾の旅人」に触発されて、改作したものと思っています。すなわち、「深夜の客」は改作であって剽窃ではないのですが、末広氏の「山の宿の怪異」は今日まで見てきた本文でも明かなように「深夜の客」の剽窃です。それは、栗原氏の tweet への返信である11月28日14:44の king-biscuit の tweet にあるように、小説の剽窃は大問題ですが、そうでなければ、それこそ埋もれている珍しい話題を発掘して紹介するのだ、くらいの意識で(すなわち剽窃だとは思わずに、珍しい材料を拾ったことに悦びを覚えつつ)行われていたのでしょう。(以下続稿)