瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森於菟『解剖臺に凭りて』(5)

・冨士出版版 (昭和二十二年七月二十日 印 刷/昭和二十二年七月二五日 發 行・定價六拾圓・前付+294頁・四六判並製本
 奥付の右下部、明朝体で「定 價 六 拾 圓」と刷った上に「解剖台に凭りて 定價 七拾五圓  冨士出版株式會社」と縦組みに刷った紙片(3.7×1.8cm)を貼付してある。
 値上げの時期であるが奥付の次、見返しの遊紙に鉛筆で横線(8.0cm)を引き、その上に黒のインクで細く「  昭和23年1月5日 購入 於 紀伊国屋.」と書いてある。なおその右下、朱文方印「羽鳥」とあるのが恐らく旧蔵者の印であろう。
 奥付の前、中央やや上に縦組みで「装 幀  恩 地 孝 四 郎」とある。すなわちこれが1月11日付(3)に言及した、黒岩比佐子ブログ「古書の森日記 by Hisako古本中毒症患者の身辺雑記」の2009年05月28日「森於菟『解剖台に凭りて』(昭和9年)」に触れてあった「恩地孝四郎が装幀をしている」版である。特徴ある横長のレタリングで、上部右寄りに黒の横書きで「臺剖解」とあって「り」の下に「」と添える。「解」の右上に小さく、さらに平べったく「新」、そして「剖」の左上に同様に「編」と添える。この「編  新」は橙色が褪色した、檸檬色のような色になっている。「臺剖解」の下に少し空けて黒でやや小さく「莵於 森」とある。中央右寄りに左側が半円形の皿の縁と底面を黒い線で描くが、側面はきちんと描かず輪違いのように縁の線と同じ線を右下にずらして底面にしてある。この皿の全面に淡い灰色で横線をフリーハンドで細かく引き、皿の中に右寄りに檸檬色のような線で手袋が片方、その右下に太い線(0.1cm)で円(径0.9cm)を描く。この皿は背表紙を経て裏表紙のっ左側(3.7cm)に及んでおり縦の直線で終わっている。右下に正方形に近い(やや縦長か)明朝体のレタリングで「社會式株版出士冨」と横書き。
 背表紙は皿の上に横長のレタリングで「解剖臺に凭りて」と縦書き、3字めまでは大きく、3字めは若干右寄り、4字めは小さく完全に右側に寄り、5字めも右寄りで若干小さく、最後の2字は小さくやや右寄り。皿の底面の下寄りにさらに小さく右寄りで「森 於莵著」、その下の側面に円(0.5cm)があってここにも灰色の横縞があるのは表紙の大きな円に同じ。皿の下方に文字があるのかは分類票が貼付されているため分からない。
 裏表紙は皿の続きの他、中央やや上に伝統的な山頂が3つに割れた富士山と中腹を巡る白雲を白く抜いた黒丸(径1.4cm)がある。
 私の見た本は表紙見開きが白く、裏表紙見開きは本文並に茶色くなっている。前者は古書店で改修したものであろうか。見開き遊紙に次いで扉、本文用紙とは違う紙を使っているらしいが裏は茶色くなっており、表も天や小口側は茶色い。文字は茶色で上部中央やや右寄りに縦長のレタリングで「森 於莵著」左上に大きく「解剖臺に凭りて」上の2字の右傍にここのみ黒で小さく「新 編 」と添える。下部右寄りに表紙と同じ字配りで小さく「社會式株版出士冨」これらの文字の間に小さく黒の線画、左後方から光が差して手間に影の伸びた、透明の液体の溜まった硝子鉢、細長い篦のようなものが指してある。また標題の下に黒丸(0.5cm)があるが、これらの○が何を表しているのかは私には分からない。
 扉の次に全て明朝体で、まづ4字下げで大きく「新編「解剖臺に凭りて」序」とあり*1

  昭 和 九 年 に 上 梓 し た わ た く し の 第 一 隨 筆 集「解 剖 臺 に 凭 り て」も 既 に い く/度 か 版 を 重 ね 讀 者 の 支 持 を 受 け て 來 た 事 は 望 外 の 幸 で あ つ た。 昭 和 十 七/年 の 版 を 最 後 と し て 久 し く 絶 版 と な つ て ゐ た の が 今 囘 民 主 主 義 日 本 の 新/建 設、わ た し く も 臺 灣 か ら 歸 國 し て 新 發 足 の 時 期 に 際 會 し、二 三 の 加 筆 を 施/し て 新 版 を 發 行 し、す べ て に 明 る く 正 し く 進 ん で 行 か ね ば な ら ぬ 新 日 本 の/靑 年 諸 君 に 之 を 呈 す る 事 が 出 來 た 喜 び を 述 べ て 序 と す る。
   昭 和 二 十 二 年 七 月
                     東 京 都 大 田 區 寓 居 に て
                                    


 裏は白紙。これを見るとこの版で初めて「新編」になったかのようにも読めるが、実際には1月3日付(1)に見たように、頁数からし昭和17年の森北書店版とほぼ変わらないものと思われる。
 1月11日付(3)の最後に触れたように、昭和書房版・丸井書店版にあった口絵図版はない。(以下続稿)

*1:2021年12月29日追記】「靑」が「逭」と文字化けしていたのを修正した。