瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

岡本綺堂の文庫本(10)

・岩井紫妻の「恋」と「死」(1)
 2月22日付(09)にて、光文社時代小説文庫『傑作情話集 女魔術師』に収録されている「岩井紫妻の死」が「新演藝」大正12年(1923)3月号に掲載された初出で、中公文庫『怪獣 岡本綺堂読物集七』に収録された「岩井紫妻の恋」は、昭和11年(1936)11月刊行の日本小説文庫299『怪獸』(春陽堂)に収録するに当たって改題・改稿されたものとの見当を示しました。
 本当ならそれぞれ「新演藝」と『日本小説文庫』に拠って比較するべきなのですけれども、「新演藝」は各所に所蔵されている雑誌ですがなかなかそこまで出向く余裕がなく、日本小説文庫299『怪獸』は稀覯書であるらしく「日本の古本屋」で検索してもヒットしません。「国会図書館サーチ」でもヒットしません。神奈川県立近代文学館には所蔵されていて、かつて『子供役者の死』や「サンデー毎日」を閲覧するために出掛けたこともあったのだけれども、今の私にはそこまでする余裕がないのです。
 そこで、――昨年「木曾の旅人」の類話について、2018年11月29日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(69)」等に述べたように近刊の東雅夫 編『山怪実話大全』の本文で比較して見たのと同じように、まぁ大体の見当を付ける作業として近刊の文庫版の本文で異同を一通り見て置くのも決して無駄ではないと思ったのです。
 それぞれの本文ですが光文社文庫『女魔術師』は2017年4月26日付(3)に引いた「◎底本出典一覧」の次の頁に10行の、末尾に〔光文社文庫編集部〕とある断り書きがあって、その最初の段落に、

◎本書収録の作品は、大正から昭和初期に発表されたため、歴史的仮名遣いと旧字が使用されてい/ましたが、読者の読み易さを考え、現代仮名遣いに改め、ほとんどを新字に変更しています。

との校訂方針が示されております(残り8行は「差別的な語句・表現・比喩」について)。中公文庫『怪獣』の方は奥付の前の頁に、1行空けで4項、断り書きがあり、1項め(3行)は底本について、そして2項め3項めが、

正字を新字にあらためた(一部固有名詞や異体字をのぞく)ほかは、当時の読本の/雰囲気を伝えるべく歴史的かなづかいをいかし、踊り字などもそのままとしました。/ただし、ふりがなは現代読者の読みやすさを優先して新かなづかいとし、明らかな/誤植は訂正しました。
 
底本は総ルビですが、見た目が煩雑であるため略しました。ただし、現代の読者の/ために、簡単なことばであっても、独特の読み仮名である場合は、極力それをいか/しました。

との校訂方針です。4項め(3行)は「今日の人権意識からみて不適切と思われる表現」について。
 中公文庫が歴史的仮名遣いであるのは確かに雰囲気が出ていますが、振仮名が現代仮名遣いと云う不統一は何とかならないものでしょうか。「底本が総ルビ」なのですから尚更です*1。(以下続稿)

*1:読み易さもあるのでしょうが、――このような処理は振仮名がない本文に歴史的仮名遣いの振仮名を新たに付けるのが現代の編集者にとっては面倒なので、現代仮名遣いで済ませているのだろうと私は思うのです。「総ルビ」ならばその手間はない訳で、こんな変則的な仮名遣いにしなくても良かろうと思うのですけれども。