昨日の続きで、著者歿後刊行の科学随筆文庫25『医学者の手帖』から、追記の後半を抜いて置こう。
追 記 二
前に記した昭和二十九年七月九日、鴎外三十三回忌を期して、観潮楼の跡に「沙羅の木」の死を刻/んだ石面を、明治を偲ぶ赤練瓦造りの「詩壁」にはめこんだものをつくったことをのべたが、その日/かねての宿案であった鴎外会記念館建設の話が再燃した。一部有志がその日根津神社社務所の一室を/借りてそのことを計り「鴎外記念会館建設委員会」をつくった。高橋誠一郎氏を会長とし、広く寄付/金を募集し、事務局を文京区役所内に置くことを決めた。区長は井形卓三氏である。
しかるにその後寄付金応募が思うにまかせず、予定建設費の一千五百万円が一年だってその十分の/一を出でず、その後はさらに振わず微々たるものというありさまでこの形勢では事業の遂行が絶望な【153】ること明らかとなった。昭和三十四年に至って、区役所から予算をとって寄付金と合せ、文京区立鴎/外記念図書館というものをつくる案を区側で出したので委員会も協議の末、記念館と図書館をできる/だけ内部では分離し、全体の設計は最初からの計画通り谷口吉郎氏に依頼し、芸術的なものにするこ/とで一致を見たのである。
昭和三十七年一月十九日は鴎外生誕百年なのでこの日を完成の目標としたい考えである。しかし、/すべての進行が思う通りに行かぬので、せめて昭和三十七年には完了されるようにと念願している。/私も今年満七十一才、この三月末日に教職もすべて退いたので、記念図書館の一室を借りて父の遺品/の整理をしたいと考えている。以上がこの年私の誕生日九月十三日の心境であったが、それから二カ/月近くたった今はさらに進んで工事着手の予定もきまり昭和三十七年一月十九日の鴎外生誕百年の日/までには整地と基礎工事もある程度進み七月九日の命日には竣工近いところまでゆくだろうという希/望をもてるようになった。 (昭和三十六年十一月五日)
追 記 三
その後、前記の計画がほぼ予定通り進行し、鴎外記念室を含んだ文京区立本郷鴎外記念図書館は昭/和三十七年十月十九日および二十日に落成記念式を行い、その後も順調に発展している。
(昭和三十八年五月十七日)
内容、特にこれらの追記が筑摩叢書版(及びちくま文庫版)に引き継がれなかった理由については今日は余裕がないので明日検討することにする。
ここに見える人名について少し触れて置こう。
高橋誠一郎(1884.5.9~1982.2.9)は当時慶應義塾大学名誉教授・日本芸術院長。現在、慶應義塾図書館が所蔵する高橋誠一郎浮世絵コレクションでも知られる。
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広重 東海道五十三次―八種四百十八景 (慶応義塾 高橋誠一郎浮世絵コレクション)
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