瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

elevator の墜落(1)

 私は幸いにしてエレベーターの事故に巻き込まれたことはありませんが、Wikipedia「事故の一覧」項や「List of elevator accidents」項を見るに、稀に、扉が開いたまま昇降して挟まれたり、極稀に、籠が落下する事故も起こっています。停電等で途中で停止して出られないまま宙吊りになる事故はしばしばあるようですけれども。
三田村鳶魚日記』昭和四年(一九二九)三月八日(金)条、『三田村鳶魚全集』第廿六巻247頁上段16行め~下段4行め、

天野利勝、山田清作、島源四郎氏。○久々にて竹清氏来/話。○八重、島を連れて浅草の天忠に往く、此日、御殿/女中の原稿を渡す。○島いふ、菊池寛全集大不出来にて、/平凡社は予約金を返還して発行を廃罷せんとす、菊池大/に驚き何か条件を与へて決行せしめたり。泉鏡花は蓄財【上】十万円に達し、某は泉のために一割の利回りになるやう、/頗る世話に勉め居れり。○又云、三越のヱレベエーター/切断、十余人死亡の中に全家六人死亡の者ありたりとか、/十万円にて世間へ知れず、是は先月の事なり。


 三田村鳶魚(1870.三.十五~1952.5.14)は噂の類を細かく記録するような人ではなかったらしいのですが、この日は春陽堂書店出版部の島源四郎(1904~1994)から聞いた菊池寛泉鏡花に関する文壇の噂、それから隠蔽された事故の噂を書き止めています。島氏については、春陽堂書店HPの石川桂子(竹久夢二美術館学芸員「夢二と春陽堂」第9回「編集者・島源四郎との交流」が参考になります。【参考文献】として挙がっている島源四郎「出版小僧思い出話」を見れば、或いは三田村氏についての回想もありましょうか。
 稀書複製會の山田清作については別に記事にしましょう。竹清は三村竹清、天忠は三月一日(金)条にも、246頁下段7~8行め「‥‥、浅草に/往き、吉住安兵衛へ立寄り、天忠にて天ぷらを喰ひ、‥‥」とあって、1週間前に出掛けたばかりでした。
 これには後日談があって、四月十七日(水)条、まづ七言絶句がありますが割愛、251頁下段6~10行め、

○平叟、小田内氏同道にて渋谷町金王九、吉田冠十郎を/訪ふ。○夏秋園子。○不在中、山田清作氏。○先日の三/越のヱレベーター墜落の風聞は、ある会社員が戯に、今/日其処に居合せ口止金を貰ひたりとその妻に云ひしを妻/が吹聴せしにて、事実無根の事とぞ。○‥‥


 平叟は八王子の機屋平音次郎。小田内通久は人形芝居の研究者で、4月15日(月)に八王子にともに出掛け、平氏の案内で車人形を見物したところでした。夏秋園子はこの頃の『三田村鳶魚日記』に頻出する女性で、5月21日付「『三田村鳶魚日記』(26)」の後半に注意した今給藜平と並ぶ、埋もれてしまった三田村氏の助手的存在の1人です。(以下続稿)