瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

北杜夫『どくとるマンボウ医局記』(1)

 8月8日に投稿予定だったがしばらく後回しにしていた。

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 7月20日付「elevator の墜落(3)」に、北杜夫が医局時代に聞いた怪談を吉行淳之介との対談『恐怖対談』から引用して、『どくとるマンボウ医局記』を参照すべきであろうか、として置いたのだが、その後、以下の3種を参照して見た。
①単行本(四六判上製本

・1993年1月25日初版発行・1995年4月10日11版発行・定価1165円・中央公論社・295頁
②中公文庫(初版)
どくとるマンボウ医局記 (中公文庫)

どくとるマンボウ医局記 (中公文庫)

・1995年 3月3日印刷・1995年 3月18日発行・定価641円・中央公論社・354頁
③中公文庫(改版)
どくとるマンボウ医局記 (中公文庫)

どくとるマンボウ医局記 (中公文庫)

・1995年3月18日 初版発行・2012年6月25日 改版発行・定価743円・中央公論新社・354頁
 カバー表紙の絵は同じで、文庫版は①を縮小して右下に横組みで「中公文庫」と入れたのみ、②③は一致。
 文庫版②初版③改版は頁数が同じであることから察せられるように、③は「改版」を謳いながら組み直しもしておらず、若干変わっているところもあるが17年経ての中公文庫の体裁の変化と云うべきもので、どこを以て「改版」と称すべきなのかが分からない。
 文章としては読み易いけれども、北氏の行状は私なぞの感覚からは乖離したところがあって、そんなに面白いとは思えないのだが、しかし当時の日本の男社会が潔くも麗しくもなかったことがよく分かる。現在では規制が掛かるようなところを排除して、気味悪いくらい美化された「昭和」イメージが流行るくらいなら、こういうものを読むべきだと思う。いや、隠さずに「昭和」は色々ヤバい時代だった、と思えるようにして置いた方が良いだろう。そして、最近の小顔長身、長身でなくとも小顔で何頭身あるんだと云う役者が、小道具だけそれらしい「昭和」を演ずるくらいなら、大量に保存されているけれども、手間暇掛けて商品化しても採算の合わない「昭和」のTVドラマやB級映画をそのまま流せば良いではないか。本書は、今から映像化できるとは思えないが、仮にするとして今の役者が演じられるとも思えない。時代劇など尚更である。今の役者は無理に時代劇など挑戦せず、似合わないことはやめて、今の役をやれば良いのである。「昭和」を忘れない、とか云って無理に妙な拵え物を作られるよりは、「昭和」のものは「昭和」に活躍していた役者たちが遺したものを見れば、それで十分だと思う。さもなければ、昭和の感覚では見逃されて来た理不尽、或いは生々し過ぎて当時映像化出来なかった理不尽に取り組んでもらいたい。(以下続稿)