瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(126)

・『長野の怖い話 亡霊たちは善光寺に現る』(2)
 昨日の続き。
 巻末の「参考文献・出典・初出・引用」10~15点め、

『信州の民話伝説集成 北信編』高橋忠治著 一草舎
『信州の民話伝説集成 中信編』はまみつを著 一草舎
『信州の民話伝説集成 東信編』和田登著 一草舎
『信州の民話伝説集成 南信編』宮下和男著 一草舎
『山の伝説』青木純二著 長野県図書館協会編 一草舎
信濃伝説集』村澤武夫著 長野県図書館協会編 一草舎


 なんと、参考文献に青木純二『山の伝説』が入っているのである。
 これまで私が、東雅夫が見付けた昭和3年(1928)の「サンデー毎日」掲載「深夜の客」と、昭和9年(1934)刊『信州百物語』の「蓮華温泉の怪話」の間に収まる、昭和5年(1930)刊『山の傳説』の「晩秋の山の宿」を《発見》したかのような顔をして来たが、丸山政也が昨年、もう気付いていたかも知れない、と思って、91~100頁「二十二 招かれざる客 北安曇郡」を見直してみたのだが、やはり『山の傳説』のことは何ともしていないのであった。
 読んで見るに気になった点はやはり地理関係で、91頁1行め「(北安曇郡)」とあるが、蓮華温泉新潟県糸魚川市西頸城郡)である。このことは2011年1月11日付(005)以来繰り返し指摘して来たが、8月29日付「杉村顯『信州の口碑と傳説』(08)」に述べたように長野県出身でない杉村氏が厳密に考えずに白馬岳と云うことで混入させてしまった、と云うべきで、しかしながら丸山氏は長野県松本市出身だし、今や殆ど既成事実化しつつあるのだけれども、だからと云っていつまでも新潟県蓮華温泉に、長野県民(?)のような顔をさせ続けるのは如何なものかと思う。この辺り、2018年8月13日付(032)に指摘した「糸魚川警察署」を排除した杉村氏の書き替えが利いて利いているように思われるのである。また3行め「白馬岳山麓の、ひなびた小さな温泉宿」と云うのも、蓮華温泉の位置は「山麓」ではなく「中腹」である。
 99頁6行めまでが「蓮華温泉の怪話」のリライトである。なお、再話の中に蓮華温泉の名称は出していない。
 そして、1行分空けて7行めからが丸山氏のコメントになっている。まづ9行めまでを抜いて見よう。

 以上は信州をこよなく愛した作家、杉村顕道の『蓮華温泉の怪話』を私がリライトし/たものである。怪談ファンのなかには、岡本綺堂の『木曽の旅人』あるいは『炭焼の話』/とよく似ていると思われた方もいらっしゃるのではないだろうか。


 「信州をこよなく愛した」とは、8月23日付「杉村顯『信州の口碑と傳説』(02)」に引いた『信州の口碑と傳説』の乙部泉三郎「序」や「自序」に基づくものであろう。未見だが昭和55年(1980)に自刊の『信濃慕情 杉村彩雨百五十首』がある。或いは、信州の口碑や伝説を題材にした短歌も含まれていようか。
 岡本綺堂「炭焼の話」は、新聞に発表されてから100年、2013年4月に中公文庫版『近代異妖篇 岡本綺堂読物集三』の編者千葉俊二による「解題」に、2013年6月29日付(018)に引いたように初めて紹介され、本書刊行の9ヶ月程前に、東雅夫編『山怪実話大全』に初めてその本文が紹介された。従って一読「炭焼の話」を想起したとすれば相当な「怪談ファン」である。いや、『山怪実話大全』には「蓮華温泉の怪話」も収録されているのだから、「炭焼の話」を知っている読者は当然「蓮華温泉の怪話」も読んでいるはずで、ここに挙げるのは「木曾の旅人」だけで良かったのではないか、と思う。
 『山怪実話大全』には「炭焼の話」と「蓮華温泉の怪話」の他に、東氏が「いま編纂中のアンソロジー」すなわち『山怪実話大全』「に急遽、追加をお願いしないと」と2017年9月4日01:03 の tweet に発見を報告していた「深夜の客」も収録されているのだが、丸山氏はこれには触れていない。そうすると丸山氏は、「深夜の客」が「晩秋の山の宿」と改題された上で『山の傳説』に収録されていることを、やはり見落としているようなのである。(以下続稿)