瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「足要りますか?」(1)

・永山一郎「配達人No.7に関する日記」(1)
 敬体ではなく常体で「足要るか」のこともあるらしいが、昭和62年(1987)高校1年生のとき、兵庫県立高校で級友から初めて聞かされたときの台詞に従って置く。
 私がこの話を思い出したのは、9月9日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(112)」に、北原尚彦『SF奇書天外』67~130頁「一九六〇年代」の最後の回、122頁12行め~130頁8行め「マンジュウ本の幻想短篇集『出発してしまったA'』」を取り上げて、一応一通り目を通したからである。この回には12人の作品を取り上げているが、この回の題にも採用しているように1人め、永山一郎(1934.8.11~1964.3.26)について、一番多くの分量(122頁14行め~124頁3行め)を割いて紹介している。
 冒頭、122頁14~17行め、

 聞いたことのないタイトルで、怪しげな本を見かけた時には、必ず手に取ることにしている。その|ようにして、古本市で発見した奇書は幾つもあるが、永山一郎『出発してしまったA'』(永山一郎遺稿刊行会/一九六五年)もその一例である。何だろう、と思って開いてみると、収録されている六短篇|のうち、三篇が幻想的作品だった。

として、123頁1~4行めに表題作、5~8行めに「配達人No.7に関する日記」、9~11行め「夢の男」の粗筋が紹介されているが、私が注目したのは、

「配達人No.7に関する日記」では、主人公のもとに配達人No.7なる人物が訪れる。配達人に渡された|紙は、右脚一本を請求するという書類だった。主人公には何のことやら判らない。会社の組合の執行|委員や、上司に相談するが、うまくいかない。主人公が最終的に請求に応じると、彼の右脚は透明に|なってしまった……。

との段落である。
 私は高校のとき、――道で大きな籠を持った老婆が話し掛けて来る。「足要りますか?」「手ー要りますか?」と身体の各部を訊いて来る。それに「要る」答えんとあかん。「要らん」言うとその分取ってかれる。と云う話を聞いた。
 大きな籠に手や足が入っていて「要るか」と言って無理に押し付けて来るのかと思いの外、「要らない」ならもらって行くための籠だった、と云うオチなので、この小説のように初めから「右脚一本を請求する」ことを明示した「書類」を「渡され」る、と云うのはちょっと違う。しかし、理由もなく脚を取って行こうと言い掛けられる、と云う発想が共通していると思ったのである。
 北原氏はもちろんそんなことは考えないので、123頁12~19行め、

 以上「幻想文学」ではあるが、正確には「幻想的な純文学」であろう。表題作といい「夢の男」|といい、ドッペルゲンガー・テーマがお気に入りのようだ。また、やたらと組合の「委員会」だの|「集会」だのが出てくるところは、実生活が反映されている様子で|ある。
 巻末の年譜によると,著者・永山一郎は、教師をしながら創作活|動をしていた人物だが、本書刊行の前年にバイク事故で死去したの|だそうだ。ちなみに帶の惹句は作家の野間宏、巻末の解説は文芸評|論家の奥野健男である。

と纏めている。1行の字数が途中から減るのは、123頁左上(14~20行め)に書影が掲載されているからである。(以下続稿)