瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「足要りますか?」(3)

・永山一郎「配達人No.7に関する日記」(3)
 一昨日からの続き。
 例によって前置きが長くなったが、話の生まれた環境を重視したい私としては、当時永山氏が勤務していた沓喰分校について、やや詳しく確認して置きたいところなのだけれども、それはやはり後回しにして、とにかく本題の方を片付けてしまおう。
 『永山一郎全集』は紺色の布装で丸背の背表紙、上半分に金文字で「永 山 一 郎 全 集」と標題、下部、私の見た本は分類票貼付のため文字の有無不明。見返しはクリーム色、遊紙があって、干からびた泥田の地割れのような模様の青っぽい透かしの入った白いやや光沢のある表紙の中央に紺色で1行「永 山 一 郎 全 集 * 全一巻      冬樹社」*は正確には中央に小さな●があって、そこから八方に花弁のような紡錘形が広がっている。次いでアート紙の口絵、裏は白紙で、表に肩の高さまで生い茂った草の中に立って、煙草を銜えて遠くを見る著者の写真、下に明朝体横組みで小さく「昭和30年 山形・新庄市郊外にて」とのキャプション。この写真は『全集』の函にも使用されているようだが、公立図書館蔵書は函を保存しないので現物を見ていない。しかし、もっとはっきり写った写真はないのか、と思ってしまう。
 1頁は「永山一郎全集 目次」の扉で、2~3頁が昨日触れた2段組の目次。4頁は白紙で5頁「第一部  創  作」の扉。6頁も白紙でここまで頁付なし。7頁から本文で最初に3行取り2段抜きで題、さらに4行2段抜きで空けて、2段組の本文。1行25字、1段21行。
 91~111頁「配達人No.7に関する日記」は6点め。日記形式で、2字下げで「×月×日」として20日分、次の条の間を1行分空ける。休日の分もあるだろうから20日間ではないが、正確に何日間かは分からない。しかし主人公の許に「請求カード」を届けに来る「配達人No.7」から「十九枚」カードを受け取り、最後には「請求に応じて」いるから、「配達人No.7」が訪ねて来た日の分は揃っていることになる。
 1日め(91頁上段~93頁上段15行め)、職場に見知らぬ男が面会に来て「一枚の葉書大の紙」を渡す。「ひどくやせて見える体」の「かなりな禿頭」の男である。「上質の艶紙を用いているその紙片」は、以下のような文面である。92頁下段4~15行め、前後から抜いて置こう。紙片は四隅の繋がっていない枠で表現されている。

 顔を近づけた私の眼に入ったのはまず “請求カード” /という活字であった。それはなぜか宋朝体で刷られてあ/った。

  請 求 カ ー ド
一、右脚一本(膝蓋ヨリ下 即チ大腿部ハ含
  マナイモノトスル)
 
   右物件ヲ納入下サルヨウ通知ノ上請求
  イタシマス
 
  沖 田 滝 男 殿
             配達人No.7

 馬鹿にしてる。私は呟いた。悪質ないやがらせにきま/っている。


 2日め(93頁上段16行め~94頁下段4行め)は翌日で、職場の食堂で昼食中の主人公の前に「帽子をかぶっ」た配達人No.7が現れて「昨日のカードと形も文面も全く同じ」カードを渡す。「何の為にこんなものをよこすんだ」と怒鳴る主人公に対し「私は配達人ですから、ただ配達するだけです」のような答えを返すばかりである。
 3日め(94頁下段5行め~95頁下段1行め)はその翌日で、主人公は「昨晩」用意して置いた「疑問」をまづ「請求される理由は何ですか」と「問いただし」て見るが、配達人No.7は「それはあなた御自身が御存知のはずでしょう、私は知りません」と「答え穏やかな微笑を見せ」る。そして主人公が「請求される理由を想い出し、請求に応じられるまで、私は幾度でも配達しなければならないの」だと説明する。
 4日め(95頁下段2行め~96頁上段6行め)は、「帰宅の途中、行きつけの飲屋で酒を飲んでい」るところに現れる。主人公は「右脚一本ヲ納入シナケレバナラナイ理由などあろうはずがない。あるはずのないことなどどうして想い出すことができるのか」と途方に暮れてしまう。
 続く5日分はいづれも短い。6日め(96頁上段10~11行め)と9日め(96頁上段4~5行め)はカードの累計枚数を記録したのみ、5日め(96頁上段7~9行め)と8日め(96頁上段17行め~下段2行め)はそれに一言書き足す。7日め(96頁上段12~16行め)にのみ配達人No.7の発言を記録する。全文を抜いて置こう。

  ×月×日
 配達人No.7はカードを渡すとき囁いた。*1
「カードが十枚になると右脚一本の請求内容がもっと増/加されますよ」
 くだらないと思う。思いたい。


 そしてその10日めから新たな展開になるのである。(以下続稿)

*1:「囁」の旁は「摂」の旁に同じ。