瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「足要りますか?」(4)

・永山一郎「配達人No.7に関する日記」(4)
 昨日の続きで10日め(96頁下段5行め~97頁上段5行め)、冒頭部を抜いて置こう。96頁下段6~10行め、

 十枚のカード。配達人No.7が三日前呟いたように文面/が変わっている。( )内の文字が “大腿部モ含メルモ/ノトスル” となっているのだ。
 配達人No.7が現れてから十日目、この十日間に私は/仕事上の過ちを十三回重ねてしまった。‥‥


 初めて仕事上の過ちを犯したのは3日めであった、95頁上段15~18行め、

 私ははじめて仕事をしくじった。私の作成した書類に/三枚の符箋がついて戻って来たのである。三枚目の符箋/には赤インクで "君は怠慢のレッテルを求めているの/か" と記入してあった。


 これが10日めの、96頁下段15~19行め、

 これ以上、ミスを重ねることは出来ない。はじめの頃、/誤った箇所に符箋をつけて指摘してくれた上司は、この/頃はもう、書類の一枚目に赤いマジックインクで "君は/怠慢の結果を知ってるね" と書き殴ってよこすだけなの/だ。怠慢の結果、それはもちろん馘首である。

と云った記述に対応しているのである。作者の永山氏は小学校教諭だが主人公は事務職員か何かのようである。
 そこで主人公の沖田滝男は上司が “日常の心得” として “‥‥、困りごとはよろず相談してほしい” と説明していたことを思い出し、上司に相談すべきかと考える。
 しかし、11日め(97頁上段6~19行め)、廊下の組合専用の掲示板に “明後日、月例執行委員会を行ないます。各委員はそれぞれ議題を考えて下さい” と板書されてあったのを見て、上司に相談するのは止めて議題として提案することにして、印刷不鮮明の組合のチラシを苦労して読んでいる遠藤に、誰が執行委員か聞くことにする。
 12日め(97頁下段~99頁上段4行め)、遠藤に紹介してもらった執行委員の栗田氏に相談し「対策はわれわれ執行部で考えますから」と言われて安心したのか、主人公は、配達人No.7に「電車に中で‥‥微笑しながらカードを渡」されても「かれの笑顔はひどく間が抜けたものに見えた。」と余裕が出来ている。
 13日め(99頁上段5行め~100頁上段4行め)、栗田氏の「生け垣に囲まれた洒落た住宅」を、「執行委員会の結果を聞きに」訪ねた主人公に、栗田氏は配達人No.7の存在を疑い「十三枚のカードを出」しても「そんなものは金さえ出せばどこでだって刷ってくれる」等と「吐き出すように言う」。前日の対応との差を指摘すると「昨日? あれは個人的感情だ」と「不快そうに言い捨て」られる。
 14日め(100頁上段5行め~102頁下段7行め)、主人公は遠藤に紹介された別の執行委員・立川行夫に、執行委員会の結論を聞きに行くが、愛人と待ち合わせている立川氏には、適当にあしらわれた上で最後には無視されてしまう。そこに現れた配達人No.7に怒りをぶつけるものの、これまで通りの返答があるばかりで、却って「ま、結構でしょう、でもお断わりしておきますけど、請求カードが十枚溜まるごとに請求物件の内容は増加しますからね、それだけは心得ておいて下さいよ」と釘を刺される始末。
 15日め(102頁下段8行め~104頁下段4行め)、遠藤に花田タマという執行委員を紹介してもらって聞きに行く。花田氏は度の強い眼鏡をかけた小柄な肥った女性で、アパート暮らしだが「そこにはいわゆる電化器具がびっしり並んでい」る。花田氏は、組合の規約に照らして「あなたの当面している状態は、かりにね、かりに事実としても組合全体の問題にはなりませんよ」と言い、結論については「委員長に教えてもらったら、それは」と答える。「じゃ、委員長を紹介して下さい」と言うと、遠藤が委員長だと言うのである。
 この間の抜けたやりとり、要するに「執行委員」を紹介してくれと言われたから、自分が「執行委員長」であることは教えなかった、と云う理屈なのだろう。主人公も遠藤を咎める訳でもなく、むしろそのことを知らずにいた「恥ずかしさに追い立てられるように、花田執行委員の室を飛出」すのである。この辺り、10月6日付(1)に引いた「やたらと組合の「委員会」だの「集会」だのが出てくるところは、実生活が反映されている様子」との北原尚彦のコメントの通り、自分も含めた組合活動の戯画化のようである。(以下続稿)