・『昭和下町人情風景』の「あとがき」(1)
森川氏は本書以外にも、前回挙げた『やさしい商品先物取引100問100答』の他に何冊か、本を出している。
そして最後に刊行したのが『昭和下町人情風景』である。実は、森川氏の著述活動はつい数年前まで追跡出来るのだが、あまり一般的でない媒体に発表されているので普通に検索したのでは、本になっている『昭和下町人情風景』が「新しい順」の筆頭に来てしまう。
それはともかく、『昭和下町人情風景』の成立事情は234~235頁「あとがき」に説明されている。本書の成立事情とも絡むので、内容を確認して置こう。234頁2~8行め、
思いつくままに業界紙に寄稿してきた短文がしだいに増えて、切り抜いておくだけでは整理、/保存が不十分なのと、前の作品と類似したものを書いたりする恐れが出てきたので、この際、/一冊にまとめることを思い立った。せっかくだから、より多くの人に読んでもらいたいと思っ/て出版社に持ち込んだら引き受けてくれたが、あまり一般的でないものは省いてほしいという。
そこで、『商取ニュース』紙に寄稿した随筆に限定して、その中の一般的でない三編と類似の/一編を除いた六十三編と、昭和五十三年に出版した『裏町の唄』から十八編を選んで一冊とす/ることにした。
森川氏は「Ⅳ 風 景」の章の【2】「冬の陽」に拠れば、189頁14行め~190頁1行め「もの書きになろうと思っていたわけではないが」若い頃から「心境を書き記したり、創作らし/きものをノートに書き連ねたりしていた」とのことで、筆が立つことを認められて複数の業界紙に寄稿していたようだ。しかし、業界紙の連載は図書館の検索には引っ掛からないので、森川氏の著述活動の全体を把握するのは容易ではない。「商取ニュース」は米穀新聞社が発行している週刊紙で、昭和45年(1970)2月3日号から国立国会図書館新聞資料室(書庫)に収蔵されている*1が欠号が7号あり、「Ⅰ 昭 和」章の【3】「ヤドカリ」が掲載された昭和47年(1972)8月28日号と、「Ⅱ 下 町」章の【5】「戦 後」が掲載された昭和53年(1978)2月23日号は国立国会図書館に行っても閲覧出来ない。
それはともかく、「商取ニュース」以外の業界紙に載せたものは一般的でない話題が多く、随筆が主体の「商取ニュース」に対象を限定したのであろう。しかしそれでは分量が不足するので本書の約1/3の項目を再録して補ったようだ。
234頁9~11行め、
『商取ニュース』の随筆は昭和五十年までは一編を除いて九〇〇字、それ以後は一五〇〇字と/いう注文であったが、若干オーバーしたものもあったので、『裏町の唄』からの分も含めて、出/版にあたって字数の整理と補筆を行なった。
昭和51年(1976)以降の諸篇は『昭和下町人情風景』では3頁、それまでは2頁で、例外の1篇は「Ⅰ 昭 和」章の【7】「記 憶」、これのみ3頁である。
すなわち、『昭和下町人情風景』では再録に当って、2頁もしくは3頁に収まるように「字数の整理と補筆」が「行な」われているらしい。従って、利用に当って(厳密には)初出と『昭和下町人情風景』とを比較する必要がある。しかし初出紙を見に行く余裕はなかなか持てないので、本書との比較だけでもきっちりやって置こうと思うのである。(以下続稿)