瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

阿知波五郎「墓」(11)

 昨日の続き。
 6月2日付「睡眠不足(5)」に、図書館が再開しても、緊急事態宣言前に借りた本が未だ積み上がっているので行く気にならない、みたいなことを書いたのだけれども、地元の図書館が予約受付を再開したので早速、ちくま文庫『絶望図書館――立ち直れそうもないとき、心に寄り添ってくれる12の物語を予約したのである。

・二〇一七年十一月十日 第一刷発行・定価840円・363頁
 前回引用した、頭木弘樹 @kafka_kashiragi の2014年7月30日20:29 の tweet での告知から『絶望図書館』刊行まで3年余りあった訳だが、翌日に渡辺淳一の小説を挙げる返信が1件あったのみで、結局『絶望図書館』344~346頁「[閉鎖書庫 番外編]」、12の物語とは別に、頭木弘樹「入れられなかった幻の絶望短編」として再度の情報募集の告知を書くこととなっていたのである。
 それに対して、先月漸く、これも前回引用した catch__23 の2020年5月22日13:31 の返信があり、頭木氏は2020年5月22日14:28 の返信にて、

わっ!!!たぶん、これです!!!/今までいろんな方からご連絡いただきましたが、すべてちがいました。/ようやく、判明したと思います。/なるべく早く、この本を読んでみたいと思います。/誠にありがとうございます(深くお辞儀する男性の絵文字)

と礼を述べている。
 私も「墓」で間違いないと思うけれども、頭木氏が twitter 及び『絶望図書館』で述べている粗筋は、かなり違って、と云うか、偏っている。
 そして、この偏った印象にこそ、2016年10月6日付(3)に述べたように、鮎川哲也が設定に矛盾があって採用出来ない、と1度は判断した「墓」を『こんな探偵小説が読みたい』に雑誌掲載時とは作品を差し替えて掲出させ、いや、そもそもが雑誌「宝石」二十万円懸賞短篇コンクール(第5回宝石賞)の候補作として活字化させるほどの、この小説の持つ魅力、有無を言わさぬ魔力が指摘出来ると思うのである。
 その意味で、頭木氏の記憶を検証することは非常に興味深い作業になるであろう。私は赤マントの検証その他でも、回想には色々と記憶違いがあって、その利用には細心の注意が必要になることを繰り返し強調して来たが、「墓」は初出以降、『こんな探偵小説が読みたい』まで書籍への収録がなく、以後もなかったはずである。従って頭木氏が読んだのは『こんな探偵小説が読みたい』で間違いない。頭木氏がいつ読んだのかが分かればなお良いが、何に拠ったか明らかになっているのが検討に当たって非常に心強い。そして、頭木氏の記憶に残っている箇所、或いは「墓」よりも強調されている箇所、反対に記憶には止まらなかった箇所、これらを検討することにより、「墓」の何処に作品としての力があるのか、炙り出すことが可能になると思うのだ。
 と云う訳で、次回から、頭木氏が twitter 及び『絶望図書館』で述べている粗筋について、細かく見て行くこととしたい。(以下続稿)