瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(154)

 何事もなければ今頃、1月31日付(152)までに目録やネット検索にて洗い出した青木純二の著述活動について、所蔵機関に出向いて出来るだけ現物に基づいて確認を済ませているつもりだったのだが、緊急事態宣言の以前から休館し始めた図書館は、現在ほぼ再開しているとは云え、国立国会図書館は予約して、かつ抽籤で当たらないと入館出来ない。都立図書館も事前予約で、制限人数に達すると申し込めなくなる。校友の資格で利用していた出身大学の図書館は、再開当初教職員と卒業年度の学生の利用に限っていたのが、現在、全ての学生に拡大されているが、やはり校友は利用出来ない。3月に借りた本は借りっぱなしだ。どうせならもっと使う本を借りて置けば良かった。
 さて、先刻、2019年9月16日付(119)の「年表「白馬岳・蓮華温泉」の怪談」の最後に追加して置いたが、次の本に「蓮華温泉の怪話」が収録されていることは、刊行直後に Twitter か何かで知り、書店でも見ていたが、そのままになっていた。
河出文庫志村有弘 編訳『山峡奇談』二〇二〇年 一 月一〇日 初版印刷・二〇二〇年 一 月二〇日 初版発行・定価760円・河出書房新社・248頁

山峡奇談 (河出文庫)

山峡奇談 (河出文庫)

  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫
 247~248頁「あとがき」から編集と「蓮華温泉の怪話」収録に関連する箇所を抜いて置こう。247頁5行め~248頁3行め、改行位置は本文に「/」が使用されているので「|」で示した。

 山・野・海・川にまつわる不思議な話は枚挙に暇がない。その中でも、小著は諸書|に伝えられている山にまつわる、怪譚・奇譚を現代語訳したものである。いわば、|〈諸国山峡不思議奇譚〉ということである。
 小著は、古代・中古(奈良~平安時代)、中世(鎌倉~安土桃山時代)、近世(江戸|時代)、近代(明治以降)の四部で構成してみた。どの部に淹れるか躊躇されるもの|もあったが、登場人物の生きた時代を考えて、それぞれの部に収録した。古代から近|世までの怪奇・不思議譚を参照・活用させていただいた諸書に心から御礼申し上げた|い。また、参照させていただいた柳田国男佐々木喜善の著作、『怪談実話揃』(大文|館書店、昭和四年)、杉村顕道『信濃怪奇伝説集』(信濃郷土誌刊行会、昭和九年/杉|【247】村顕道『彩雨亭鬼談』荒蝦夷、平成二十二年)所収の二作品も、原文のままではなく、|若干の修正を加えたことを断っておきたい。タイトルについても、少しだけ改変した|ものについては、原題を記していない。


 12~52頁「◆古代・中古(奈良~平安時代」に10話、53~83頁「◆中世(鎌倉~安土桃山時代」に14話、84~188頁「◆近世(江戸時代)」に49話、189~222頁「◆近代(明治時代~昭和)」に10話、さらに223~244頁「附録――」として秦 憲吉「山窩綺談 釈迦ヶ嶽のおせん」を収録している(「あとがき」248頁4~6行めに言及)。
 「あとがき」にある通り、話の内容により分類しているので「◆古代・中古」や「◆中世」に江戸時代の文献が使用されているようなことにもなる。すなわち45頁11行め~48頁、鈴木牧之『北越雪譜』の記述を訳して9話め「逃入村の塚と道真の祟り*1」として、末尾(48頁15~16行め)に小さく(原題/は「藤原時平夫妻の塚と道真の祟り」)と添えている。典拠は題の1行前に、下寄せで小さく示す。ちなみに「逃入」には2012年1月25日付「平井呈一『真夜中の檻』(08)」及び2012年1月26日付「平井呈一『真夜中の檻』(09)」に触れたことがあるが『北越雪譜』の記述は全く意識していなかった。
 しかし「◆近世」の9話め、98~100頁「磐司磐三郎の話*2」と、「◆近代」の2話め、190頁9行め~193頁3行め「鼠になった狩人」末尾に(原題は「嫁子鼠の話」)は、ともに佐々木喜善『東奥異聞』を典拠とするが、後者を「近代」に分類するのは如何なものか。この話については、昭和30年代の山岳雑誌や平成初年の民俗雑誌に剽窃して投稿した者があり、近年、この剽窃の方が民俗資料と誤って、利用されていることを考証したことがある。話の内容については、2018年12月10日付(076)以降に断片的に引用してあるが、とても明治以降の話とは思われないのである。前者も登場するのは「萬治」と「磐司」の「ふたり」で題にある「磐三郎」は本文に全く登場しない。そこで青空文庫『東奥異聞』を閲覧するに「磐司磐三郎の話」は3つの節に分かれており、「一」は前置き、「二」が本書に収録された話で、「三」は短い、磐次磐三郎と云う1人の人物にまつわる話である。その「一」を読めば題の理由も諒解されるのだが、これを省略したために内容との齟齬が生じている。改題すべきであろう。かつ、後者と同じような山の神のお産を助ける話はこの「二」節の前半、すなわち本書に再録された部分の前半にも見えるのであって、やはり後者「鼠になった狩人」も前者「磐司磐三郎の話」と同じ時代に分類しないとおかしいだろう。それが「◆近世」で良いのか、と云う問題が更に生ずるけれども。(以下続稿)

*1:ルビ「にごろむら」。

*2:ルビ「ばんじ ばんざぶろう」。