瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(251)

井上雅彦「宵の外套」(7)
 昨日の続きで①初出『京都宵』②再録『四角い魔術師』③再々録『夜会』の異同を確認しつつ内容を見て置こう。要領は昨日に同じ。
 語り手の「私」は、6月28日付(246)に引いた「自作解題」の類に「母から聞いた想い出話」等と述べているところからして、もちろん井上氏本人がモデルと云うことになる。
 この後登場人物として、老人と友人が登場する。老人については後述する。
 友人は発表時48歳だった井上氏よりも大分若い女性のようである。東京在住の作家「せんせ」である「私」が京都に取材に行くときに行き着けている飲食店の店員で、話し相手になっているらしい。以後、この外套の男の正体については、この友人との会話で「私」の考えが説明され、友人の考えも披瀝される。

【C】コトリ(①467頁14行め~469頁3行め②244頁上10行め~下21行め③131頁下13行め~132頁下14行め)

 友人は、ころころ笑って、ボトルを納め、
「そらそうと……その黒い外套の男いうのんは\――」
 真顔になった。【467】
「コトリとは、ちがいますの?」【131】
「コトリ?」
 友人は、頷き、「うち、聞いたことありますえ。|\祖母*1から教わったことなんやけれど……」
 夜、遅くまで起きていると、大きな袋を持った\男が|あらわれる。
 子獲り*2
 あるいは、子盗り*3。――文字通りの人攫*4いだ。
「サーカスに売られてしまうて。今よりほんの少\ぉし|ばかり子供やったから、うち、追いかけ/られ\たら、ど|【244上】ないしょうかと*5――」
 実は袋を持った人攫いの話も、当時の母は知\って|いた。
 しかし、あの外套の男の「話」とは明確に異な\ると|いう。コトリを怖がるのは子供だけだっ/たが、\あの外|套の男のことは、若い女教師なども怖れて\いたという。
「袋を持った人攫いは、都市伝説というよりも、\【132上】子|供を寝かしつける教訓話じゃないかな。実/用的な創|作。……外国のブギーマンよりは、リアルだ\けどもね。|……もちろん、源泉となる事/件があっ\たのかもしれな|いけれど」
「そしたらやはり、せんせのいわはるもんかも、\しれ|まへんなあ……」
 視線は虚空を行き交った。*6
「そら、黒いマント着てはって、人の血い吸わは\るん|やったら、なあ……」【468】
 やはり、あのイメージに酷似している。
 酷似していて、あたりまえだ。というのが、私\の説|だった。
 昭和十二年から十五年ぐらいの間に――「彼」\が、|京都にいても、矛盾はない。


 「コトリ」については、2019年7月13日付(201)に大阪の黒田清『そやけど大阪』の回想、これが東京にも「小鳥クリーニング」として存在(?)していたことは、2019年7月21日付(204)吉行淳之介の証言を引いて置いたが、赤マントと対比させて述べていた文献を昨年見ていたのに、記事を上げないままであったことを思い出した。そこで次回は、その文献の紹介を済ませて置くこととする。(以下続稿)

*1:ルビ「おばあちやん」。

*2:ルビ「コトリ」。

*3:ルビ「コトリ」。

*4:ルビ「ひとさら」。

*5:②③「しようかと」。

*6:②この行字下げなし。