瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(163)

・怪談レストラン❸『殺人レストラン』(6)
 日本民話の会 学校の怪談編集委員会学校の怪談大事典』の「峠の一軒家」と、本書の「とうげの一けん家」の比較の続き。要領は8月20日付(160)に同じ。

【D】巡査の来訪

学校の怪談大事典』36頁下段7~12行め

 いれちがいに、こんどはひとりの巡査がやってき/て、これこれしかじかの男がこなかったかときいた。/巡査の話によると、よいの口にふもとの村でひとり/の女が殺されたが、その犯人の男がこちらのほうへ/にげたらしいというのだ、巡査は男のあとを追って、/あらしの闇のなかへでていった。*1


『殺人レストラン』38頁2行め~39頁9行め
 38頁2~3行め

 と、また、入り口の戸をたたくもの/がいる。*2

として、34頁3・6行めと同じ擬音語の1行。なお、この頁の上部は「Don/Don!」と叩かれている板戸を開けようとする老人のイラストで、天辺は光沢があるくらいに禿げているが、耳の後ろから後頭部に掛けて、癖毛でかなりの毛量がある。
 5行め「さっきの男がもどってきたのかな」と出て見ると、「びしょぬれ」の「わかいおまわりさん」が、9~10行め「夜中におこしてすまないが、わかい/男がひとり、こちらへこなかったかな」*3と尋ねる。そこで39頁1~3行め「それらしい男」が「きた」ことを説明し、事情を尋ねると、4~8行め、

「いや、じつは、夜の八時ごろ、あっちの村で、わかいむすめが殺され/てな、顔じゅう血だらけにして死んでおったんだ。その犯人らしい男が、/どうも、このとうげ道をのぼってきたらしいので、あとをおってきたと/いうわけなんだが。*4
 いや、どうも、おこしてすまなかったな」

と言って「とびだしてい」く。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 昨日と同じ要領で、現代教養文庫666『日本怪談集―幽霊篇―』に載る話、さらにはその原話、青木純二「晩秋の山の宿」と杉村顕「蓮華温泉の怪話」と比較して置こう。
 『日本怪談集』では、巡査が来るのは翌朝のことになっているが「晩秋の山の宿」では「十分間ばかりも経った頃」、「蓮華温泉の怪話」では「小半時たって」すなわち30分くらい経過してから現れている。この点、吉沢氏の方が原話に近くなっている。『学校の怪談大事典』は「いれちがいに」、『殺人レストラン』は寝ようとしたところに巡査が現れるので、長く見積もっても10分も掛かっていないであろう。
 『日本怪談集』は、温泉宿を訪ねたときに「越中若い女を殺した犯人」を捜索している旨、説明している。『学校の怪談大事典』は「ふもとの村でひとりの女が殺されて」と曖昧にしており、『殺人レストラン』も「あっちの村で、わかいむすめが殺されて」と、やはり具体的な場所を指定していないが、「顔じゅう血だらけ」と云う状況を述べていることが大きく異なっている。これは次回、【E】で確認する女の幽霊の姿を先取りして印象付けて置こうとしたのであろう。
 なお「晩秋の山の宿」は「越中で、若い女を殺して」、「蓮華温泉の怪話」は「越中で女を殺して」と、巡査が犯人を捕まえて下山するところで、主人が尋ねて説明を受けている。最初、温泉宿に現れたときは犯人を追跡中だったので、巡査は悠長に事情の説明などしていない。『日本怪談集』も捕まえる前だけれども、夜が明けてから、犯人は逃走してから大分経っているので、そんなに慌てていないのであろう。――原話では夜中に巡査1人で追跡することになっていたのが、こちらは「宿の犬も協力し山狩りをして」捕まえることになっている。
 犯人がその後どうなったのか、吉沢氏はその説明をしていない。(以下続稿)

*1:ルビ「じゆんさ///ころ・はんにん/お/」。

*2:ルビ「い・ぐち・と」。

*3:ルビ「よなか」。

*4:ルビ「よる・じ・ころ/かお・ち・し・はんにん/みち/」。