瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(165)

・日本民話の会 学校の怪談編集委員会学校の怪談大事典』
 昨日までで、ともに吉沢和夫の手に成る、本書の「峠の一軒家」と、怪談レストラン❸『殺人レストラン』の「とうげの一けん家」との本文の比較を終えた。
 最後に、例話の前後に丸ゴシック体で添えてある説明を検討して見よう。まづ例話の前、35頁下段9~10行め、

 村里を遠くはなれた山のなかの、とうげの一軒家でお/こったといわれている話です。*1


 しかし、昭和末年から多くの「現代伝説」に接しているはずの常光徹が、8月19日付(159)に引いた『殺人レストラン』の「解説」で、昨日見たように典拠ではなさそうな今野圓輔 編著『日本怪談集―幽霊篇―』を挙げ、同じく大島広志が2018年8月20日付(037)に引いたように、日本の現代伝説『ピアスの白い糸』「Ⅳ 家族」の3節め「父の背中」に、「古いハナシ」すなわち早い時期のものとして挙げる類話、171頁3~13行め「〔参考〕背中に殺した女」は、やはり『日本怪談集―幽霊篇―』の、同じ話なのである。『日本の現代伝説』シリーズの共編著者で、誰よりも「現代伝説」に精通しているはずの常光・大島の両氏が、「父の背中」――近年、朝里樹はこれを「おんぶ幽霊」と呼び替えようとしているが――を遡った際に、ともに蓮華温泉の話を挙げて、吉沢氏の「とうげの一軒家でおこったといわれている話」には触れていない。吉沢氏の手許に、このように「‥‥といわれている話です」と断言出来るような資料があるのなら、是非ともそれを明らかにして、そちらも蓮華温泉の話と並べて収録して欲しかったと思うのである。
 この例話の後、36頁下段19行め~37頁上段1行め、

 犬や、おさない子どもの目には、おとなにはみえない/ものがみえたのです。殺された女の人の霊魂が、犯人の/男にくっついてきたのでしょうか。あらしの夜のとうげ*2【36】の一軒家のできごとです。


 もし常光氏の示唆する通り『日本怪談集―幽霊篇―』の書き換え、すなわち蓮華温泉と云う固有名詞を避けて、練り直したものであるとするなら、吉沢氏は自らのアレンジを、自ら考案した題名とともに『学校の怪談大事典』と云う、一応、学校に伝わっている怪異談を纏めた「事典」に紛れ込ませたことになるので、どうも、釈然としない気分にさせられてしまう。
 さらに37頁上段2~3行め、

 とうげの一軒家ではありませんが、犯人の背後に亡霊/がついていたという話は、ほかにもあります。*3

として、4~15行めに掲出している別の例話は、2018年8月19日付(036)に触れた、日本の現代伝説『ピアスの白い糸』「Ⅳ 家族」の3節め「父の背中」の、168頁1~12行め「〔類話1〕お母さんをおんぶ」の、忠実な要約である。(以下続稿)

*1:ルビ「むらざと・いつけんや/」。

*2:ルビ「/ころ・れいこん・はんにん/」。

*3:ルビ「はいご・ぼうれい/」。