瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(271)

・中村希明『怪談の心理学』(23)
 昨日の続きで、13節め「白い手の恐怖と思春期の性不安」の後半、本題の部分を眺めて置きましょう。48頁10行め~49頁5行め、

 フロイトは単純な願望充足夢を歪曲・加工する最大の力に、リビドーの抑圧をあげた。/「学校の怪談」というデマゴーグも、集団の意識化に眠る暗い願望を充足するものであった/から、フロイトが「夢判断」で用いた理論がそっくり応用できる、
 筆者の中の娘が小学校三年生だった昭和四十九年ごろになると、当然全国の小学校のト/イレは清潔な水洗トイレに替わっている。このころになると、トイレの下からヌッと出る/「白い手」は、白いタイルの便器の孔から飛出してきて話しかける親指小僧に変わっていた/【48】という。
 フロイトの夢解釈によると「蛇」も「親指小僧」もみなペニスの「象徴」である。つま/り、密室であるトイレの下の空間から出現する「白い手」の恐怖は、思春期の少女が持つ、/性に対する漠然たる期待と不安とに密接に関係していると解釈することによって、トイレ/の怪談が女子生徒に多い理由がはじめて説明がつくのである。


 フロイトと云うと何でもそっちの方に持って行かれてしまう印象があります。
 「中の娘」と云うからには3人姉妹で、昭和49年(1974)ごろ、すなわち昭和49年度に小学校3年生だったとすれば昭和40年度の生れとなります。
 「親指小僧」の話を中村氏に知らせたのは「中の娘」さんなのでしょうけれども、この妖怪(?)の話題は、どのくらい広まっていたのでしょうか。
 そこで、帯の宣伝文句に「戦後から二〇〇〇年前後に/ネット上に登場する怪異まで/日本を舞台に語られた/一千種類以上の怪異を紹介!」と謳う朝里樹『日本現代怪異事典』を見てみましたが見当りませんでした。『日本現代怪異事典』については、一昨年来「おんぶ幽霊」項、「浅川駅」項、それから「赤マント」項について当ブログでも検討してみました*1。その折に2018年8月22日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(39)」にて「細かく名称で分けた項目と大雑把に纏めた項目とのバランスの悪さが目立つ」と指摘して置いたのですが、その後、この弱点のうち前者をカバーする続篇が刊行されました。
・朝里樹『日本現代怪異事典 副読本』令和元年(2019)6月28日 初版第1刷発行・定価1800円・笠間書院・315頁・A5判並製本

日本現代怪異事典 副読本

日本現代怪異事典 副読本

  • 作者:樹, 朝里
  • 発売日: 2019/07/01
  • メディア: 単行本
 どのような本であるのかは、そのうち検討の機会があるでしょう。今、見て置きたいのは287~308頁、最後の章である「第5章『日本現代怪異事典』拾遺」に、50題の追加があることです。ひょっとしたら、と思って眺めて見たのですが、『日本現代怪異事典』刊行後に入手したと思しき魔矢妖一・真宵魅鬼・闇月麗・マイバースデイ編集部などの本、それからWEBサイトからの追加でした。もちろん、ネットで検索してもグリム童話やペロー童話の親指小僧がヒットするばかりでなかなか昭和49年(1974)頃に小学校の女子便所に出現したらしい、この妖怪「親指小僧」には行き着かないのです。

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 さて、以下の節は2016年1月29日付「赤い半纏(09)2016年1月30日付「赤い半纏(10)2016年1月31日付「赤い半纏(11)」に検討してあります。この4年半、空いたままになっていた隙間がこれで漸く埋まりました。ここで一先づ。この作業は切り上げることとしましょう。(以下続稿)

*1:「異界駅」みたいな話にそもそも興味がないせいか「浅川駅」項については少々手応えがありませんでしたけれども、他の2項については、この事典がかなり問題を含むものであることを明らかにし得たと思っております。