瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中学時代のノート(19)

・昭和56年頃に聞いた怪談ノート(16)後篇⑥ 怪談(その十)おまえや!

 1行空けて22頁8行め~24頁19行め、

 ある田舎に池があった。夏は水をたたえているのだけど、/冬になると、水が涸れて、底無し沼の泥沼のようになってい/た。
 この田舎に秘密で結婚している男女がいた。
 あるとき男が、会社で社長に呼びだされた。
「なにやろ」と思って行って見ると、社長は「娘の婿にな/らないか」という。社長の娘と結婚したら、次の社長/は自分――。男は承知した。
 そうなってみると、いままで付き合っていた女が邪魔/になった。
 丁度冬だった。男は女にますいをかがせて、ねむらせて、/池の端まではこばれて来た。そして男は、背中でねむっ/【22】ている女を両手でおもいッきりブン投げた。(すると、こっち(男の方)むくでしょ、)女は、泥沼に頭が入るというとこ/ろで気がついて、
「うらんでやる(のろってやるだったかもしれぬ)
と言って沈んでいった。
 その後、池はうめたてられてしまった。丁度、女の沈んだ/あたりに木がはえてきた。そのあと団地が建つことになっ/て、その木は切られた。しかし、そこにいくら柱を立てよう/としても立たない。ので、そこには家が建たないことにな/った。
 二年ばかり立って男がやって来た。池はうめたてられて/団地になっていた。
「よかったァ――。これでもうばれへん。」
と言って、丁度女の沈んだ、昔の池のまん中あたりに来/た。(そこには木があった、とも)そこだけ家が立ってなかっ/た。と、もう日がくれたというのに、一人の男の子があそ/んでいる、男は、やさしく、(坊や一人とか話しかけて、)
「坊や、お母さんはァ」ときくと
「おるゥ」【23】
「そんならお父ちゃんはァ」
と男がきくと、その子供は(先生はききての方を指さして)
「おまえや
といったかと思うと、
「あー、お母ちゃんが呼んでるゥ」
と、見えなくなっていた。
 男はおそろしくなって、警察に自首した。その男の話/をもとに掘って行くと、木のあったところの真下に、空/洞があって、女の死骸が出てきた。
 その子供は、男と女との間にできた子やったんやって。
 この話は五年前ぐらいに本当にあって、新聞にものって/た。
 
 これももっと長い話しだった。他にもあったと思うが、思/い出せない。
 四年になって、こわい話が聞けるかと思ってマンガクラ/ブに入ったが、■山先生は他のクラブの方に行ってしまっ/たので、こわい話はきけなかった。
 四年のときはほとんどこわい話とは無縁だった。【24】


 この話は私が初めて聞いた「お前や!」と大声を出して驚かせる話だった。これも同じ日に聞いた1話めと同じく、後に「かなり忘れてしまった」箇所を思い出して、書き直している。更に大学時代に記憶に基づいて語り直したのが、2017年2月17日付「恠異百物語(2)」に引いた戯作である。そこでは「小学4年生の3学期、昭和57年(1982)2月頃に」聞いたと註記しているが、正しくは小学3年生の昭和56年(1981)2月頃ことであった。
 校訂案。

 ある田舎に池があった。夏は水を湛えているのだけど、冬になると、水が涸れて、底無し沼の泥沼のようになっていた。
 この田舎に秘密で結婚している男女がいた。
 あるとき男が、会社で社長に呼び出された。
「なにやろ」と思って行ってみると、社長は「娘の婿にならないか」と言う。社長の娘と結婚したら、次の社長は自分――。男は承知した。
 そうなってみると、今まで付き合っていた女が邪魔になった。
 丁度冬だった。男は女に麻酔を嗅がせて、眠らせて、池の端まで運ばれて来た。そして男は、背中で眠っている女を両手で思いッきりブン投げた。(すると、こっち(男の方)むくでしょ、)女は、泥沼に頭が入るというところで気が付いて、
「恨んでやる(呪ってやるだったかもしれぬ)
と言って沈んでいった。
 その後、池は埋め立てられてしまった。丁度、女の沈んだ辺りに木が生えてきた。そのあと団地が建つことになって、その木は切られた。しかし、そこにいくら柱を立てようとしても立たない。ので、そこには家が建たないことになった。
 二年ばかり経って男がやって来た。池は埋め立てられて団地になっていた。
「よかったァ――。これでもうばれへん。」
と言って、丁度女の沈んだ、昔の池の真ん中辺りに来た。(そこには木があった、とも)そこだけ家が建ってなかった。と、もう日が暮れたというのに、一人の男の子が遊んでいる。男は、優しく、(坊や一人とか話しかけて、)
「坊や、お母さんはァ」と聞くと
「おるゥ」
「そんならお父ちゃんはァ」
と男が聞くと、その子供は(先生は聞き手の方を指さして)
「おまえや
と言ったかと思うと、
「あー、お母ちゃんが呼んでるゥ」
と、見えなくなっていた。
 男は怖ろしくなって、警察に自首した。その男の話をもとに掘っていくと、木のあったところの真下に、空洞があって、女の死骸が出てきた。
 その子供は、男と女との間に出来た子やったんやって。
 この話は五年前ぐらいに本当にあって、新聞にも載ってた。
 
 これももっと長い話だった。他にもあったと思うが、思い出せない。
 四年になって、こわい話が聞けるかと思って漫画クラブに入ったが、■山先生は他のクラブの方に行ってしまったので、こわい話は聞けなかった。
 四年のときは殆どこわい話とは無縁だった。


 さて、一昨日引いた20頁6行めにあったようにこの日聞いた話が合計「三つ」だとすると、「他にもあった」のに「思い出せなかった」話は1話、その1話を、私はこの「恠異百物語」を書いたときに思い出したのである。それが2017年2月20日付「恠異百物語(5)」に引いた100話めだが、かなり脚色してしまった。しかしもう原型は思い出せない。
 ■山先生は小柄だったけれども体育の先生のように元気の良い、短髪で目の大きい人だったように記憶する。教えてもらったことはないので話を聞くのも初めてだったが、この日語った3話ともよく出来た話で、しかも(このノートには上手く再現出来ていないが)頗る話し上手だった。担任だったらもっと色々な話を聞けたかも知れないと思うと、「こわい話」を理由にクラブ活動を決めてしまう程の私としては、今更ながら甚だ残念に思われることであった。(以下続稿)
10月1日追記】原本の当記事に関連する写真を貼付した。

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22頁
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23頁
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24頁