瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(12)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(5)
 先刻、NHKプラスの見逃し配信で、やっと第15回(最終回)まで、メモを取りながら一通り再見し終えた*1
 しかし、見ているうちに気付くところがあるので、メモするポイントは次第に増えて行く。『シナリオ』に異同をメモした附箋を貼付して、長くなる場合はチラシの裏に書き留めているのだが、第3回までのメモの倍以上のボリュームがある。出来ればもう一度再見したい(し、見ようと思えば見られなくもない)のだけれども、切りがないのでメモと『シナリオ』に頼りつつ、一通り記事にして行くこととする。
 昨日の続き*2
・第4回(1)グローブ①
 TVドラマの登場人物は、それぞれに問題を抱えている、たけしの場合、それが前半はグローブで、後半は鉄道模型であった。第1回で、たけしがグローブがないため飛んできたフライを捕球せず頭を抱えて避けてしまったことを久たちに詰られ、いよいよ、それ以前から欲しいと思っていた、古道具屋の店頭に吊してあるグローブへの思いを熱くするのであった。
 その、金を持っていないのに店に来ては物欲しげにしているたけしを邪慳にあしらう古道具屋のおやじを第1回から印象深く演ずるのは田武謙三(1914.8.13~1993.11.19)で、田武氏が本領を発揮(?)するのが第4回である。
 しかしこの辺り、私はあまり細かくメモを取っていない。『シナリオ』に基づいてざっと見て置くこととする。
 まづ冒頭、50頁上段2行め~下段10行め「●商店街(夕方)」が古道具屋の店先である。――商品を買わない客に嫌な顔をするような商店主が私の子供の頃にもいて、私の場合、一つ処で育たなかったから、嫌な顔をされても必要があればその店で買物をし、顔見知りとして最低限の付き合いを続ける、と云ったことが出来なかったため、用事のない店には入らない、と云うのが習い性になってしまった。
 それはともかく、古道具屋主人に邪慳にあしらわれて一旦帰り掛けたたけしが戻って来て、50頁下段9~10行め、

たけしの声「ケチ バカ ハゲ タコ
おやじ「(カッとして) コラ

と、まるでシナリオの段階で田武氏のキャスティングが決まっていたかのような悪態を垂れる。「たけしの声」とあるけれども、TVドラマでははっきり姿も映っていた(と思う)。
 さて、たけしが買おうと思っている中古グローブは第1回(15頁)に見えていたように「八百円」なのだが、この第4回で、祖母の菊(千石規子)にその八百円をもらって、次兄の秀二郎(松田洋治)とともに古道具屋に買いに行く。ところが「おととい」値上げして「九百八十円」だと言うので、2人で「クソ爺い」と言って、泣きながら帰って来ることになる。
 ここで私が注目したいのは、祖母が金を出すまでの段取りである。
 TVドラマでは、第4回に、急に祖母がお金を出してくれる。所謂「サプライズ」である。
 しかし『シナリオ』では、第1回、たけしが父・竹次郎の仕事を手伝って二百円の手間賃をもらうつもりが、悪友たちに見付かって乱闘になり、ペンキで汚してしまった悪友たちの服を弁償することになった上に仕事も初めからやり直さないといけなくなって、母・真利子に叱られてしまう。21頁上段20行め~下段6行め、

たけし「二百円は?」【21上】
真利子「二百円だって? お母ちゃんの方がお前か/ ら貰いたいくらいだよ。」
  菊が内職をしながら、
菊  「たけし、グローブだろ、おばあちゃんが義/ 太夫のお月謝ためて買ってあげるから、そんなに/ ガッカリするのはお止し。」


 TVドラマでは、この菊の台詞がなかった。
 そして『シナリオ』では第2回にも、前回メモした宮森圭子の家に、やはり二百円目当てで父・竹次郎の手伝いに行く前に、34頁下段3~10行め、

たけし「二百円くれるね? ほんとだね?」
竹次郎「銭の事ばっかり言うな。」
たけし「だってえ、グローブ八百円するんだぜ。おば/ あちゃんは、義太夫の月謝で買ってやるって言う/ けど、ちっともくれねえんだもん。」
真利子「おばあちゃんの月謝はみそかになんないと/ 入らないの。それより、四回働いたら八百円になる/ だろう、さ、頑張って来な。」

との会話があったが(確かこの会話を含むこのシーンごと)TVドラマでは省かれていて、菊がグローブ代をたけしに渡すのはこの第4回に、全くの「サプライズ」として実行されることになるのである。
 ――これは、もちろん、月末に買ってもらえる(かも知れない)と分かっているよりも、TVドラマのようにお金を出すまで黙っていて、喜ばせた方が効果的だろう。そしてそれだけに、古道具屋が急に値上げして兄弟で悔し涙に暮れる場面にも、感情移入もしやすいのである。
 最終的に第5回の冒頭、63頁上段2行め~下段13行め「●西野家・表〔昼)」にて、菊に残りも出してもらったたけしは古道具屋へと急ぎ、そして63頁下段14行め~64頁下段8行め「●古道具屋の店」のシーンでちょっと演技をして八百円にまけさせてお目当ての中古グローブを手に入れる。その際、64頁上段16~17行め、

おやじ「仕様がねえなあ。――まあな、三カ月も毎日/ のように見に来られちゃ……。」

と言って折れるのだが、そうすると昭和29年の12月の末まで、10月・11月・12月と古道具屋に通い詰めていたことになる。(以下続稿)

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 それはともかく、まだ商店街に色々な店があって、それぞれの商店主が大きな顔をして、子供なんぞに諂ったりしなかった時分の空気を私も少しは知っているので、今となっては懐かしい。
 私なぞは去年からと云わず、もっと前から始終自粛生活みたいなもので、今や八百屋とドラッグストアとスーパーマーケット以外の店に行くことは絶えてないが、兵庫県明石市の新興住宅地で過ごした小学校中学年の頃は、人並みに玩具屋で物欲しげにして、当時流行のゲームウォッチなんぞを買っていたものだった。団地のショッピングモールにあった玩具屋のおやじは小学校でも評判になるくらい、買わないで見に来るだけの子供を追い払うような、このTVドラマに出て来る、金のないたけしを邪魔っけにする古道具屋や玩具屋の主人と同じようなおやじで、それで私は、買う金がないときは店に行くのはよそう、と云う気分にさせられ、そのうちに物を買う気もなくなり、そして小学6年になるときに横浜市に転居して、それまで全くお洒落に気を遣う風でなかった呑気な小学校から、急に皆が見た目をやたらと気にするようなところに放り込まれて、却ってお洒落を馬鹿々々しく思うような意識を植え付けられてしまった。一つ処で次第にそういう方向への意識を抱かされるような按配であったら良かったのだろうが、あまりにもギャップがありすぎた。それまで全くそんな、見た目に気を遣わない、そういう奴がいたとしても、何気取ってるんだ、と軽んずる風だったのだから。併せて、商店主が子供に邪慳であっても、同じ場所にずっと住んで、たまに買うくらいの付き合いがあれば、そこまで恐れなくても良かったのだろうが、父の転勤に伴う転居・転居で、同じ場所で腐れ縁のように長く続く関係を築けなかった私は、金もなしに店には行かない、買わない物を手に取らない、いや、物欲そのものを抑える方向に進んでしまったらしい。――そんな訳で、私は服装など見た目を全く気にしないようになり、そして食物にもこだわらなくなり、評判の店に行こうと云う気にもならないし、女子高の講師だったときも食堂に1人で行って1人で食べていて、生徒に同情されたくらいだったが同僚に相手にされないから1人で食べていたのではなく、1人で美味しく手早く残さず黙って食べれば満足なので、話をしながら食べるのが面倒なのである。人と一緒だと落ち着いて食べていられない。それで、今の状況下が苦にならないのである。

*1:第13回~第15回の見逃し配信は明朝8時18分で終了する。

*2:1月10日追記】昨日は第15回まで見るのに忙しく記事を推敲する余裕がなかった。よって以下の記事は全面的に改稿した。